テツヤから呼び出されて京都から東京駅まで来たが、これからどこへ行けばいいのだろうか。
一泊分の荷物をスポバに詰め込んで肩からかけているそこが重い。
僕は人ごみの中、携帯を開いた。
着信履歴からテツヤの名前を選択し、電話をかけようとした僕の肩が誰かに叩かれた。
「赤ちん!」
振り返ったそこにいたのは、秋田にいるはずの敦がいた。珍しくお菓子を持っていなかったが、敦の数歩後ろにいる陽泉のSGである氷室さんが両手にたくさん持たされている。
僕は一旦電話をかけるのをやめて敦との再会を喜んだ。
「偶然だね、敦」
「んーっとね、偶然じゃないんだぁ。赤ちん、次はここに行かなきゃだよ〜」
敦はポケットから取り出した紙を僕に渡す。
それを受け取ると、紙には黄色い字で【いつものコンビニっス!】とでかでかと書かれていた。
僕たちでいう“いつものコンビニ”とは、部活帰りにアイスを買いに寄っていたコンビニにいるのだろう。
……スタンプラリーでもしたいのか?わざわざ僕を東京に呼び出して。
「赤ちん、離れていても心配してくれてありがとう」
「あ、つし……?」
後ろ手に隠していたものを僕に差し出す。
それは、一本の紫色の薔薇の花だった。
「赤ちんはいつまでたっても俺の誇りだよ」
「バカだね、敦は」
僕は薔薇の花を受け取る。
これがスタンプの代わりなのだろうか。これを考えた奴は少なからず洒落っ気があるらしい。
「これ、どうやって手に入れたんだい?」
「これはねー、室ちんに手伝ってもらったんだぁ」
僕が敦の前から顔を覗かせると、氷室さんは微笑みながらお辞儀を返す。
「手伝ってもらった、とは?」
「紫色の薔薇がほしいって敦が言うものだから、自分で染めてみたら、とアドバイスしただけだよ俺は」
「染めたのか、自分で」
「うん。頑張ったんだよ、俺。偉い?」
「ああ。偉いよ敦。……ありがとう」
僕はもらった薔薇に口づける。
すると、突然敦が屈んで頬にキスしてきた。
「誕生日おめでとう、赤ちん」
――ああ、そういうことかい、テツヤ。
:パープルローズ
紫色の薔薇の花言葉:
誇り
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