∴ 午前0時、神社の前で 【午後11時神社前な!一分でも遅れたら轢く】 という物騒なメールが宮地先輩から届いたのが9時の話。 それから高尾と連絡を取って、俺の家まで迎えに来たのが10時の話。 人でごった返すなか神社の前に着いたのが、10時50分の今の話。 「やっぱ人すげーな」 「……帰りたいのだよ」 「言わない言わない。宮地さんに轢かれるって」 「おー、おまえらちゃんと来てたな!」 高尾に肩を叩かれたとほぼ同時に、寒そうに歩いてきた宮地先輩が俺たちに声をかける。 口元まで覆われたマフラーの隙間から白い息が出てくる。鼻の頭まで真っ赤になっていた。 「宮地さん、寒さで真っ赤じゃないすか」 「笑ってんじゃねーぞ高尾」 「バカになんてしてないですってぇ」 「その発言からはっきりわかったわ」 高尾と無理矢理肩を組んで、ぐりぐりと拳を頭に擦り付けた。 「お前ら早いなー」 「時間ぎりぎりだったな」 大坪先輩と木村先輩が一緒に到着。 俺はどうも、と小さく挨拶して、高尾を離した宮地先輩が二人に笑いかけた。 「行こうぜ」 秀徳のスタメンが集まってゆっくり話す間もなく、俺たちは人ごみを掻き分けて参拝するための列に並んぶ。 途中人ごみにはばかれ戸惑っていた俺の手を高尾が握ってくれたことは秘密だ。 「先輩たちは合格祈願ですか」 「あー、まあ。それもあるっちゃあるけど」 「来年のお前たちのことを祈るつもりだ」 「てか、願い事って口に出しちゃいけないんすよー?」 自分たちのこれからの未来より、俺たちの未来を優先してくれていることが正直…いやかなり嬉しかった。顔にも口にも出さないが。 何十分も並んでやっと賽銭箱の前へたどり着いた俺たちは先輩三人の後ろに二人で並んで手を合わせた。 「(来年こそ、インターハイ・WCともに秀徳が制覇する。先輩たちが無事受験に合格できますように。高尾と一緒にいられますように。あいつらと……願い事が4つは欲張りすぎなのだよ……)」 「真ちゃんめっちゃ真剣。なになに?どんな願い事したの?」 「言わないのだよ、馬鹿尾」 「ひっでえ!オレは真ちゃんと一緒にいられますようにとー、先輩たちの合格祈願とー、インハイ・WC制覇!」 高尾と思考が全く同じだったのは不愉快だが、今日はよしとしよう。 俺たちは列から抜けて、おみくじを引きに行く。 箱の中から細くて長い棒を引いて、巫女さんに渡すと俺に紙が渡された。 それを開く。大吉だった。 「お、真ちゃん大吉じゃん。すげー」 「当たり前なのだよ。俺は人事を尽くしているのだからな」 「オレ小吉。びみょー……」 「まあ、高尾だからなのだよ」 「真ちゃんちょいちょい酷いこと言ってくるよね」 結んでくるね、と言っておみくじが沢山結ばれている木に先輩たちと向かっているうちに俺は大吉であるおみくじの内容に目を通した。 もちろん、といったところか。大吉なので良いことしか書かれていない。 「待ち人きたるってオレのことかな?」 「馬鹿」 結び終わったのか、高尾が俺の腕にしがみつきながら覗いてくる。 待ち人きたる……高尾だったら既に来ているのだよ。それに俺は別に高尾を待っていない。 「お、あと五分で年変わるぞ」 「年が変わる瞬間に真ちゃんといれて嬉しいよオレ」 「黙れホモップル」 とりあえず人が多いから神社から出ようということになり、鳥居を目指す。 そういえば、中学の頃はあのメンバーで0時に神社に集合が当たり前になっていた。 たいがい赤司からメールが送信されてきて集合していたが、やはり今年はそういうわけにはいかないようだ。 皆それぞれの道を歩んだ、ということだ。 いつまでも過去を引きずっていてはいけない。俺も前に進まなければ。 ブー、ブー コートのポケットの中からバイブが伝わってくる。 俺が携帯を開くと、メールが五通きていた。 【今年最後の緑間っち取られちゃったっス(><;)】 「……黄瀬?」 黄瀬、青峰、紫原、黒子、赤司。 一体何事なのだよ。 【今年最後は鷹の目野郎と先輩に譲ってやんよ】 【ミドチーン、おみくじまた引いてねー?】 【今年の最後は仕方ありませんが、今年の始まりは僕達とですよ】 【――午前0時、神社の前で】 3、2、1、とカウントダウンの声が遠くに聞こえて メールを読み終わってから近づいてきた鳥居を見れば、そこには色とりどりのメンバー。 『あいつらと、また集まれますように』 ゴーン、と108つ目の鐘が鳴った。 :午前0時、神社の前で ピアニッシモ様、リクエストありがとうございました!! 書き終わって気付いたのですが…秀徳緑…?キセキ緑…?な状態になりましたまじですみませんでしたああああああああ…!(スライディング土下座) |