「鯉伴様」

「あぁ、双子」


柔らかく幸せそうに笑いあう二人
近いうちに夫婦になる二人を悲しげに見つめる一つの影
初代世代の妖怪達は複雑だった

自分達の大将が嘗て愛した人が転生し、その息子と結ばれようとしている
自分達の大将の為に、小さな頃から見守って来た大切な二代目の為に


どうすればいいのか、どうしようもない


けどこんなの残酷過ぎる、悲し過ぎる


「もう!何なのよっ!!」

「雪女よ、落ち着かないか」

「五月蝿いカラス!だって、何なのよ……あの子、妾を見た時初めましてなんて言ったのよ!」

「仕方なかろう。彼女は前世の記憶がないのだから」

「でも――ああッ!!もういいわよ!」

「おい雪女!何処に行く!?」


雪女、雪麗は足音荒く廊下を歩いて行く


大嫌いだった
妾から総大将の心を奪っておいて、綺麗で優しくて健気で可憐で気配りも出来て奴良組の支えにも彼女は容易くなった
悔しかった

でも、羽衣狐の攻撃からぬらりひょんを庇う為に躊躇も迷いもなく飛び込んだあの子に、敵わないと思った

だからぬらりひょんと珱姫の祝言に納得なんてしなかった。けど珱姫も双子の為にぬらりひょんに嫁いだのが分かった時、妾と珱姫は一緒に誓った
あの子が戻ってくるまで、彼女の居場所は、ぬらりひょんの隣は妾達が守ろうと



彼女はぬらりひょんを選ばなかった



裏切られた気がした
悲しかった、妾を忘れているのが、辛かった


最初は大嫌いだった
でも彼女の人柄に触れて大好きになった


夢を見ていたんだ
ぬらりひょんと双子が結ばれて、妾が双子にちょっかいをかけぬらりひょんが嫉妬する
そんな妾達を双子は優しげな眼差しで見つめて、結局は笑いあう
ぬらりひょんと双子がいちゃいちゃして妾達下僕は呆れて、幸せそうな二人に妾達も幸せになって、奴良組は一層華やぐ
双子が子を産んで一緒に育てて、構って貰えなくなったぬらりひょんがやっぱり騒いで、それで妾は呆れて双子が優しく笑う


そんな未来を描いてたのに


じわりと涙が滲む
悔しいのか悲しいのか苦しいのか寂しいのか、分からない

分からないけど

妾は


「雪女様?」

『雪麗様?』

「、」


妾は


「どうされたんですか?何かお辛いことでもあったんですか?」

『雪麗様、何かお辛いことがあるのでしたらお話して下さい。私も雪麗様のお辛いことを一緒に背負います』


妾は!!!


「あんたが大好きなのよ!!!」


心配そうにその綺麗な顔を歪めるこの子はやっぱり前世のあの子と同じで、優しくて儚い


本当は、ぬらりひょんと一緒になって欲しい

だけど


「雪女様、ありがとうございます」


この子が幸せになるのなら……ぬらりひょん、ごめんなさい


照れたようにはにかむ双子が「何故だか雪女様を見ると心が温かくなるんです。会ったばかりなのに心がとても大事な方だと言っているみたいで」なんて言うから、今度こそ涙が一筋溢れそうになった


「双子、妾のことは雪麗と呼びなさい」

「?雪麗様…?」

「、それでいいわ」


ねぇ、双子
お願いだから今度こそ自分の為に生きて幸せになって
誰かの為に自分を犠牲にしたり、命を落とすようなこと絶対しないで


「今度こそ、守るわ」

「雪麗様?何か言いましたか?」

「何でもないわ。ほら、行きましょう」


妾が差し出した手に双子は微笑みながら細く頼りない手を重ねる
ぎゅっと、もう離さないように力を込めて握る

今度こそ失わないように
同じ想いで誓い合った珱姫の為にも、双子を愛し夫婦になる鯉伴の為にも、双子が愛した奴良組の為にも、今でも双子を愛しているぬらりひょんの為にも

そして妾自身の為にも

双子を妾の全てを掛けて守り通してみせる


「雪麗様」

「なに?」

「私自身よく分かってはおりませんが、一人で背負おうとしないで下さいませ」

「、え」

「僭越ながら私も一緒に背負い支えます。ですから何かお辛いことがあるのでしたら」

「あぁもうっ!!!!」

「っ!!?」

「そうね、あんたはそういう子だったわ」

「あの、雪麗様」

「分かったわ。双子」

「はい!」

「妾は貴女を絶対に守る。だから何かあったとしても一人でどうしようとか考えないで。誰かに頼ったり甘えたり、貴女はしなさい」

「…………」

「それで、ずっと奴良組にいて、私達を、鯉伴を支えてちょうだい」

「はい!勿論です」


双子にはいつまでたっても敵わないと思った


「双子」

「はい?」

「        」


忘れられたことは悲しく思うけど、優しく微笑う貴女がいてくれる今がとても幸せに思うの

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