今もまだ心に巣くう悪夢 珱姫と二人で双子を失った悲しみの中、手探りで幸せになろうとも子を儲けようとも、いつまでも自分に付きまとう闇(かこ) 最期に笑った双子が涙が込み上げるくらい美しすぎて、目を瞑るといつでも思い起こせる愛しい痛み あと何度月日が過ぎれば彼女は転生する?あと幾度この痛みに耐えれば彼女の笑顔を見れる?あと、どれくらい涙を流せば救われる? 最近鯉伴の様子が可笑しい 毎日昼夜問わずふらりと出掛け、帰って来る時は切なげでも幸せそうな顔をしている 組の中では惚れた女に会いに行っているなんて憶測が飛び交っているが、強ち間違いでもないと思った 何故なら今の鯉伴は、あの時の、双子の所へ通っていた時のワシにそっくりだから 「二代目!!」 「あ?」 「早く嫁の顔を見せて下さいよ!」 「そうっすよ!最近自分の娘を二代目の嫁にって企んでる奴もいるんすよ」 「二代目、惚れてる女がいるんでしょ?俺達二代目が未来の奥方を連れて来てくれる日が待ち遠しいんですからね!!」 「うるせー!!テメェら黙れ!そして散れ」 小妖怪たちに詰め寄られ鬱陶しくなったのか振り払う鯉伴の顔は微かに朱に染まっていた やっと小妖怪たちは去ったのか鯉伴は溜め息を吐き、ふとワシを見るなりあからさまに顔を顰められる 「なんじゃ、失礼な奴よのぅ」 「うるせぇ」 「ところで鯉伴」 「……………なんだよ」 ワシの次に発する言葉が分かっているのか鯉伴は嫌な顔をする きっと今のワシの顔は憎たらしい程、意地の悪い笑い方をしているだろう 「ワシは義娘が欲しい。さっさと嫁を連れて来い」 「…………………」 思い切り顔を歪める鯉伴 一瞬、泣きそうな顔をしたかと思うと深い溜め息を吐いた 「あいつ、手を取ってくれねぇんだよ」 「………、……」 「連れ出したい、その気持ちは嘘じゃねぇ。でもそこにあいつの想いが無けりゃ意味がねぇ」 「………その娘が、お主の手を取れぬ程、お主が弱いということだろう」 「……っ…あんたに、何が分かるんだよ!!」 鯉伴が剣呑に自分を睨み付け激情する だけど だけど痛い程、分かるさ 手を取って貰えない不甲斐なさも焦燥も、彼女に安心を抱かせてやれない自分への悔しさも、全部あの頃の自分と同じもの 「強くなれ、鯉伴」 「、」 「その娘が安心してお主の手を取れるくらい強くなるんじゃ」 「ハッ、分かってらぁ」 笑う息子に、ワシも笑う きっとこのバカ息子ならその娘と幸せになれる ワシでは成し得なかった幸せをワシよりも先に味わうのだろう そう思うと少し悔しかったが、それでも幸せそうに笑う息子にワシも嬉しくなり願った 鯉伴の愛する娘が、その手を取れば良いと 心から思っていたのに 「親父、紹介する。前に話した俺が惚れてる女だ」 「初めまして、ぬらりひょん様。御狐神双子と申します」 神様というものがいて、そやつらが仕組んだことなら、神とはなんてこんなにも残酷なんじゃろう |TOP| |