巡り、巡って時は流れる
あの哀しくも美しい妖狐がこの世を去った悲劇からどれくらいの時が流れただろう
時は止まること流れる


流れて、また物語の幕が開けようとしていた










「…ぁ……桜」


この部屋に唯一ある天窓からひらりと桜の花弁が一枚、また一枚と舞い降りてくる
物心ついた頃から私は鳥籠の中にいた
狭く閉ざされた世界
壁の白と天窓から見える空の色しかない、この酷く狭い部屋が私の世界だった


私はこの世界を受け入れている……受け入れて、諦めている
諦めて、いるのに何を期待しているのだろう
手を差し伸べてくれる彼を、
…………彼?
彼とは誰か、いつかの、前世の記憶なのか想いなのか


心にぽっかり穴が空いたみたいに胸が痛む
切なくて悲しくて苦しくて、狂おしい程愛しくて
自分の中にある自分のではない心
でも確かに私の心(おもい)なんだ


「貴方は、誰なんですか?」


記憶の中でぼんやりと浮かぶ姿、夢で何度も見るその人が涙を流す姿

ねぇ、貴方は、誰?

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