本当に、咄嗟だった
羽衣狐の攻撃がぬらりひょん様に真っ直ぐ向かうのを見て、気付いたら目の前に金無垢の瞳を見開き愕然としている愛しい人とやけに熱を持った私の右胸


笑みさえ浮かぶ程、私の身体は自然に動いていたんだ
彼を守れたのが誇らしくて心底安心して彼が生きているのが嬉しくて、でも顔を歪めるぬらりひょん様にどうしようもなく悲しいと思い、私は崩れた

崩れた私の身体をぬらりひょん様は受け止めてくれる


何度この腕に救われただろう
何度この温もりに安堵しただろう
何度この人に、恋しただろう


「双子、?」

「お怪我、ありませ…か…、ぬらりひょん、さま」

「なぜ、何故ワシを庇った!!!?」


なぜ?そんなの当たり前じゃないか
考える間もなく、ただ貴方を助けたい一心で私は羽衣狐の攻撃を甘んじて受けた

いや、違う
ただ、これ以上傷付く貴方をみたくなかったから
ぬらりひょん様の為なんて綺麗な理由じゃない、自分の為だ


「ふ、ふふ」

「なにを、笑っておる」


自分の醜さに笑みが溢れる
結局私は、誰かの為になんて動けない
全て自分の為なんだ

そんな汚い私の為に悲しげに苦しげに顔を歪める彼は、本当に誰よりも綺麗だと思う
その身も心も、全て

だから、最後に言わせて欲しい
もうすぐ消えるだろう命が枯れないうちに、彼に伝えたいことが沢山ある


「ありが、と……っございました」

「…っ……」

「あの、狭い、鳥籠から…ハァ、ッ…貴方が、いたから」

「、ワシは何もしとらん。これから、これからするんじゃ!これから双子と幸せに」

「い、ぃえ……私は、幸せでした。自由を知り、仲間が出来、人を、愛しむ心を知った…っゴホッ、ハッ、カハッ」

「良い!もう喋るな……っ珱姫!珱姫、来てくれ!」

「ぬらりひょんさ、ま」

「双子、頼むからっ…お願いじゃワシを一人にせんでくれ」


ぬらりひょんの腕の中、双子は綺麗に微笑む


「珱姫、を、お願い…します。あの子を…ハァ、幸せに…」

「双子、嫌じゃ双子、双子」

「私は転生し…、…また、巡り逢えます。ねぇ、ぬらりひょんさま………―――――」


感謝の言葉もなにもかも、まだまだ言い足りない
もっともっと伝えたいことがある
もっと、生きたいなんて、初めて心から望んだのに


双子は最後の力を振り絞ってそっとぬらりひょんの唇に口付けを、おくる
彼女が最期に見たのは最愛の人の涙を溢す姿だった
そして最期の告白と共に、彼女は息絶えた



「あ、ああぁぁあぁああぁぁああああ!!!!」



一人、涙を流し彼女の遺体を掻き抱く妖怪を遺して、美しい妖狐は去ってしまった

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