この狭い箱庭で私はずっと、生きるのだと思っていた
思って、諦めていた
自分はそういう運命なのだと
そう、諦めていたんだ





なのに、


「よう、あんたが江戸一番美しいって妖狐かい?」

「、貴方は」

「人はワシをぬらりひょんと呼ぶ。あんたは?」

「御狐神、双子」

「そうかい…綺麗じゃな」


いきなり現れた妖怪、ぬらりひょんは私の近くに寄ったかと思うと掌で頬を撫で指先で瞼をなぞる


それが、私と彼の出会いだった


「双子!今日も来たぞ」

「、ぬらりひょん様!」


快活に笑う彼が来てくれるのをいつも、待っていた
狭い鳥籠の私には彼が持って来てくれる、色とりどりの花や甘くて美味な甘味、上品で絢爛な簪、外は私の知らないものばかりで知らないことを沢山私に教えてくれる彼はいつしか私の心の拠り所になって、いた


初めて触れた温もり、甘やかな優しさ、自由に飛び回る彼に私が惹かれるのは当然のことだった



「なぁ、双子」

「なんですか?ぬらりひょん様」

「お主、そろそろ外に出てみたいと思わないかい?」

「、」


自由を望む私に彼の言葉は酷く魅惑的だった



だけど


「いいえ」


私にはこう応えるしかないのだ


「双子っ」

「私のようなものにまで気遣って頂きありがとうございます、ぬらりひょん様」

「あんただからだ…っ」

「…、……」

「双子だからワシは傍におりたいと思う。一緒に生きて欲しいと思う。のぅ、双子」

「、は、い」

「この手を取ってはくれんか」


涙が溢れる
自由を望む私には枷が余りにも多すぎた
彼を巻き込むわけにはいかない、彼に戦わせてはいけない
一緒に戦ってくれなんて、言えやしない


顔を覆い涙を流す私を彼は抱き締めてくれる
私の全てを包むように、私を全ての厄災から守ってくれるように、全てを、受け入れてくれるように
ただ抱き締めてくれた



「ワシが双子を守れない程弱いと思うか」


嗚咽が邪魔して喋れない私は首を横に振る
彼は強い、分かってる
分かってるけど、自分のせいで彼が傷付くなんて絶対嫌だ


「そうか……それでも双子が不安だと言うのなら、ワシは魑魅魍魎の主になってくるかのぅ」


驚き伏せていた顔をあげる
この人は、なんと言った?


「元々そのつもりじゃったし、ちぃとばかし予定が早まっただけじゃ。心配しなさんな」


あぁ、この人はなんて馬鹿なんだろう
私なんかの為に、命を掛けるようなことをするなんて



「だから暫くは会えなくなる。じゃが双子、ワシを信じ待っていてくれ」



唇に一つ、優しい熱を残し彼は去って行った
その後ろ姿を見て、一筋涙を溢した私も一つ決意をする






























「なっ?!」

「申し訳ございません、ぬらりひょん様。待っているだけなんて嫌だったので来ちゃいました」

「来ちゃいました、じゃないわ!折角ワシがカッコつけたというんに……全く、おぬしというやつは」


あんなに逃げ出すのが怖かったのに、たった一人の存在のお陰で、たった一つの勇気を踏み出せた


ふと彼を仰ぎ見る


呆れながらも笑う彼が好きで、次いで逃げる時負った傷を見て怒る彼が大好きで、でもやっぱり嬉しそうに笑ってくれる彼が愛しくて、私の選択は間違ってなかったんだと思う




この時はそう思っていたんだ

TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -