突発的な話 | ナノ



5



ゆらゆらと、意識が揺れる
ふわふわと、微睡みに埋もれた思考が働かない


「……ナマエ、」


誰かに名前を呼ばれたような気がした
起きなくちゃ、とは思っているのに瞼と身体が鉛のように重くて、言うことを聞いてくれない


「ナマエ」


今度ははっきりと聞こえたそれはイッキさんの声
どうして彼の声が、とも思ったけど考えるよりも涙が溢れた


「ナマエ?、泣いてるの」


心配そうな声音に優しく撫でられる頭と握られる右手に嬉しくて悲しくて、縋りたくなる

助けて、って


「ナマエ、早く目を覚まして…僕がいるから」


イッキさん…でも私はお姉ちゃんを裏切れ、ない


「大丈夫」


、え…?なにが、


「僕が君を守るよ」


っでも、お姉ちゃん


「身も心も、君を苦しめる全てから僕が…僕の全てを賭けて守ってみせるから」


…っ……イッキ、さん


「ナマエを愛してるんだ」





ほろほろ、ぼろぼろ涙が次から次へと溢れ出た
ふと強張る身体から力が抜け、あんなに重かった瞼が開けた


「、イッキさん」

「ナマエっ」


やっとイッキさんをこの瞳に写せるのに涙で視界がぼやけてしまう

そんな私にイッキさんは苦笑してそっと腕を伸ばしてくる
そして覆い被さるよう強く、けれど優しく抱き締めてくれた

私は彼の腕の中で思う


弱い私にはこの人が必要だ


心の中でお姉ちゃんに謝る
許されないだろうけど、何度も、何度も



「ナマエ」

「、」

「好きだよ」

「…っ……」

「君が好きだ」


縋るように彼の背中に腕を回す
涙が止まらなくて、嗚咽が邪魔をして、胸が詰まって
言葉を返せなかった


「ナマエ大丈夫、大丈夫だよ」


優しく私の全身を巡る甘やかな言葉たち
ずっと欲しかった私を抱き締める腕、頭を撫でてくれる手
あたたかい温もり



「す、き」

「ナマエ…、」

「すきっ…なの!」

「うん、ありがとう…僕も大好きだよ」



ぐずぐずと彼の胸で子供のように泣く
みっともなくても、今はそれが心地好かった



暫くイッキさんの胸の中で彼の鼓動を聞きながら微睡んでいると、不意にドアが開く気配がする

そちらに視線を向けると、お姉ちゃんが立って、いた


「っ」


咄嗟にイッキさんから離れようとしたら逆に強く抱き締められてしまう

お姉ちゃんの表情を見るのが怖くて私は俯いた


「ナマエ」


お姉ちゃんが私の名前を呼ぶ
それが酷く優しい声音に聞こえて、ハッと釣られるように顔を挙げた…ら慈しむようなお姉ちゃんの瞳と目があった


「お、姉ちゃん」

「良かったですわ」


お姉ちゃんは心底安堵したように微笑みながらベッドに近付いて来るとイッキさんに抱き締められている私の頭をそっと撫でてくれる

優しい眼差しで優しく、本当に優しく壊れ物を扱うように


「そんな顔をしないで下さいまし」

「…、………」

「本当は私が貴女を甘やかして、大切にしたかったんですけど」

「え、」

「もうその役目は、イッキ様のものですわね」



お姉ちゃんの言葉の意味が理解出来ないでいた
だってお姉ちゃんはイッキさんが好きで、なのになんで



「可愛い私の妹が笑っていてくれればいいのです」


もう、ダメだ
涙も嗚咽も止まらない、止められない

お姉ちゃん、お姉ちゃん大好きなお姉ちゃん
ずっと周りから構われるお姉ちゃんを羨んでいた
けど嫌いになんてなれなかった

こんなに優しいお姉ちゃんを、嫌うなんて出来る訳ない


「ずっと私は、ナマエの幸せを願っていました」


お姉ちゃんにすら、甘える事が出来なくて頼る事を知らなくて
お姉ちゃんを避けていたことだってあるのに


「ナマエが甘える事が出来る人と出会えて、本当に良かったですわ」

「お姉ちゃんっ」


イッキさんから離れお姉ちゃんの腕の中に飛び込む
柔らかく甘い上品な香りが胸一杯に広がった
きゅっと抱き締め返してくれる腕

あぁ、今になって気付くなんて





お姉ちゃんの温もりもイッキさんと同じように優しい温もりだった








―――――
もう……もう!!
途中からイッキが空気だけどイッキが空気読んで黙ってたってことにしといて下さい…
おおうもう、無理だ

◇◆2011.11.16