突発的な話 | ナノ



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絵麻ちゃんが自分の出生の事実を知ってしまい家出をして棗の家に泊まった後のお話。絵麻ちゃんと兄弟達に恋愛要素は全くありません。棗は悩む絵麻ちゃんを慰め叱咤してあげただけ
因みにオリキャラが出ます
風花ちゃんのマネージャー
夜影(よかげ)さん♀27歳独身





「ねえ、棗」

「ちょっ……おい!風花?!」

「ヤろうよ」

「待てって!……どうしたんだよ?」


今、私は棗を押し倒している。棗の問い掛けには答えない。だってなんて言ったらいいか分からないし、ただ、胸がもやもやして苦しいから。だから快楽に溺れたくなって一番身体の相性がいい棗に抱いて貰おうと思って来たのに、胸の苦しさは消えない


「風花、送ってやるから帰れ」

「…、…………」

「何考えてんのか知らねぇけど今アイツが辛い思いしてんだぞ。女同士傍にいてやるとかしてやれよ」

「………っ」


ああ、もういやだ


「帰る」

「は?、っておい!」


棗の上から降りてカバンを掴み玄関へ向かう。お腹にドロドロとしたものが込み上げてきて本当に、気持ち悪くて仕方ない


「風花!送るから少し待て!」

「いい。いらない」

「本当にどうしたんだ?ったく、少しは絵麻を見習え」

「、はっ」


本当、いやになる


そのまま棗を振り切って私は外に出た。この辺りの裏道は把握してるからきっと棗には見付からない。こういう時裏道に詳しいマネージャーがいて良かったと思う


「あー…帰りたくないし、どうしよう」


家にいたくない時の私の逃げ場はいつも棗のところだった。でも今は棗のところにもいたくない。そしたら友達なんていない私は何処に行けばいいのだろう


ブーッブーッブーッ


携帯のバイブが鳴り響く。棗か兄弟達の誰かだろうと思い電源を落とそうと携帯を取り出し画面を見てみるとマネージャーの『夜影さん』の文字。ちょうど良かった。これで仕事だったら家に帰らなくて済む


「はい」

『もしもし風花?悪いんだけどさ明日の撮影来週になったんだけど大丈夫?』

「あ、はい。大丈夫です」

『そう良かった。なら調整しとくわ』

「あの、」

『ん?』

「今日は仕事、ないんですか?」

『ないわよ?オフって言っといたじゃない』

「そう、ですか」


仕事じゃなかった……もういっそのこと漫画喫茶に行こうか、なんて思っていたら夜影さんが不思議そうに問い掛けてくる


『今日お兄さんの家に行くって喜んでたじゃない。だから絶対仕事入れないでって言ってたのに、どうしたのよ?』


優しく尋ねてくれる柔らかい声。私は言葉に詰まって何も応えられないでいた。暫く沈黙が流れ、ふいに夜影さんが苦笑いを溢した空気が伝わってくる


『今何処にいるの?』

「…………この間教えて貰った棗の家の近くの裏道に入って、少し歩いたところ」

『分かったわ。直ぐ迎えに行くから動くんじゃないわよ』

「…っ……」


電話しているのだから頷いても相手には伝わらないって分かっているけど言葉が出なかった。でも夜影さんは全部分かっているようで、クスクスと笑って電話を切った


それから十分が過ぎた頃に夜影さんの愛車が現れた


「ほら、乗りなさい」


夜影さんに促され後部座席に座る。私が座ったのを確認すると夜影さんは車を発進させた


「取り敢えず私の家に行くけどいい?」

「………うん」

「全く、世話の掛かる子なんだから」


言葉とは裏腹にやっぱり優しい声音。何だかんだ言いつつ優しい声と面倒見の良いこの人が私は好きだ

車内に流れている心地好い洋楽と夜影さんが持つ雰囲気のお陰で無言が続くけど気まずいものにはならなかった


「着いたわよ」


夜影さんが借りているマンションに着き車を降りる。先を歩く彼女の後ろ姿を追った


「中、あんまり片付いてないけど文句言うのはなしよ」

「はーい」

「よし、入って」


夜影さんの部屋は散らかってなどいなく、多少資料など仕事の書類らしきものが積まれているくらいで、あとは綺麗に片付いていた


「適当に座ってて。紅茶でいいかしら?」

「あの、夜影さん……」

「ん?なによ」

「…、………ありがとうございます」

「、いつもツンな風花が珍しい!デレ期到来かしら」

「っ、変なこと言ってないで早く紅茶淹れて来て下さい!」

「ふふ、じゃあゆっくりしてていいから」


彼女がキッチンに行くのを見てからソファーの端に腰掛けて置いてあったクッションを抱き締めながら丸まる。するとどうしたって思い出されるのは先程の棗とのやり取り……別に私は姉さんが心配じゃないわけじゃない。ただ、ただ


「風花?」


ハッと顔を上げると夜影さんが心配そうに此方を見ていた


「、すみません」

「……風花、はい」

「え……あ、ハーブティー」

「それ飲んで落ち着きなさい」


夜影さんに促されて一口ハーブティーを口に含むとなんだかホッとする。夜影さんはそんな私に微笑んで頭をぽふぽふと撫でてきた。それがすごく温かくて、眠気を誘われる


「眠いなら少し寝ちゃいなさい」

「、でも……」

「いいから。偶には家族以外の大人に甘えなさい」

「………夜影さ、ん」

「おやすみ、可愛い風花」


夜影さんの優しい声と温かい手に誘われ、私の意識は微睡みに沈んでいった














「ん、」


ふと目を覚ますと私は柔らかい毛布に包まれていて、寝る前に抱き締めていたクッションは枕にされている


「夜影さん?」

「あら、起きた?」


キッチンから夜影さんが顔を出し私が起きているのを確認するとカップを二つ持って此方にやって来た


「眠気覚ましのアールグレイをどうぞ」

「ありがとうございます」


カップを受け取り琥珀色の中身を一口飲み、夜影さんに問い掛ける


「今、何時?」

「夜の八時だけど、帰る?」

「………、……」


きっと夜影さんは私が家に帰りたくないって気付いている。でも私は未成年だ。だから本当なら帰らなければいけない……けど


「帰りたくない」

「仕方ないわね。ならご家族の方に、誰かしらに連絡入れなさい。そしたらここに泊まっていいよ」

「、え……いいの?」

「いいから言ってるの」


今まで仕事で帰らなかった時なんて多々あったし、連絡なんて今更だと思いながら私は携帯の電源を付ける。電源を付けて一番に目に入ったのは大量の着信履歴で、棗の文字で埋まっていた。メールも沢山来ている。けどそれらを無視して私は雅兄に電話を掛けた


『もしもし風花?!』

「うん、あのさ」

『今何処にいるの?!棗から『風花は無事に家に着いたか』って連絡があって、聞いたら昼過ぎに棗の家を出たっていうのに風花は全然帰って来ないし心配したんだよ……棗もずっと風花を探し回ってるし絵麻ちゃんも心配してるよ』

「………そう」

『ねぇ、今何処にいるんだい?直ぐに迎えに行くから』

「いらない」

『え、風花?』

「今日は知り合いのところに泊まるから。それだけ伝えたくて」

『待って!知り合いって誰?信用出来る人なの?』

「心配しなくて大丈夫だよ。じゃあ暫くは帰らないから」


電話の向こうで雅兄がまだ何か言ってたけど電話を切って電源も直ぐに落とす。勢いであんなことを言ってしまったが直ぐに後悔した。そんな何日も夜影さんに迷惑を掛けるわけにはいかないから、やっぱり漫画喫茶に行くしかないかな、なんて考えていたら夜影さんが可笑しそうに笑っている


「いいわよ。何日でも面倒見てあげる!」

「でも、」

「どうせ他に行くとこないでしょ?それに一緒にいた方が仕事もしやすくなるし、いいじゃない」

「、夜影さん……」


いくら我が儘を言っても笑って受け入れてくれるこの人は本当に、器がデカイと思う。今もそうだ。何があったかなんて聞かないで私を受け入れてくれる


「ハハッ、夜影さんが男だったら惚れてたかも、」

「あらそう?ふふ、大人気アイドル朝倉風花にそう言って貰えるなんて光栄ね」

「うっわ、うそくさ」


可笑しそうに笑って頭を撫でてくれる、男とは違う細くて女の人の手。だけど兄達に撫でられた時みたく、すごく安心した


「ね、夜影さん」

「んー」

「ありがとう、」

「ん」


やさしい人。こんな姉が欲しかった…だなんて、姉さんに対して失礼なことを考えてしまった私は、とても最低な人間に思える



―――――
風花ちゃんには時に厳しく、時に優しく、甘やかすでもなく受け入れてくれる。そんなお姉さんが必要なんじゃないかと思って出来た突然のオリキャラ夢
いや、当初はこんな予定じゃなかった。もっと棗を書くつもりだったのに…!多分続きます

◇◆2013.04.04