突発的な話 | ナノ



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「最悪だ……」


眠れないし部屋を真っ暗に出来ない
こんな事になるならホラー映画なんて観なきゃ良かった

だって仕方ないじゃん
尊敬するハリウッド俳優が出演していて、知り合いの監督に勧められたのだから

演技の幅は広いに越したことはないし観といて損はない、けど怖かった


「はぁー…、しょーがない」


ベッドから身体を起こす
微かな物音でもびくついているんじゃ、きっと朝まで一人じゃ寝れない


「確か、雅兄は夜勤で京兄も明日まで帰らないんだったよね。要兄も法事で光兄は何時もの事にいない。梓兄もイベントライヴでいなくて、琉生も店に泊まるって言ってたし」


頼れる人が悉くいない、なんて

昴や侑介はいるだろうけど、女に免疫のない二人だ
朝まで部屋に二人きりなんて色々と持たないだろう
祈織は、受験生だし勉強してるか
弥と姉さんはもう寝てるだろうしこんな事で起こすなんて却下


「なんで棗いないのよ」


棗がいれば迷わず棗のところに行くのに


「しかも残ってるのが選りに選って」





















「わぁー!風花がこんな時間にお兄ちゃんの部屋に来るなんて珍しー!」



椿兄だなんて



「なになにぃ、怖い夢でも見て一人じゃ寝れないの?うわっ風花まじ可愛い!俺興奮しちゃう!」

「ごめん。やっぱり人選間違えた。祈織のとこ行く」

「ちょちょちょっと待って!お願い!!他の男のところに行かないで!ごめんね一緒に寝よう?!」


椿兄の言葉に私はにこりと笑う


「じゃあ椿兄、添い寝だけだよ?」

「え、えええええ!!!目の前に風花がいるのにヤっちゃダメなのー?!いいじゃんヤろーよー」

「私、祈織のとこに」

「分かった!分かったから待って、ちょ、待ってええええええええ」





ベッドに腰掛けぐるりと椿兄の部屋を見回す


「相変わらず悪趣味」

「えー、そんなことないじゃん。俺ちょー趣味いいから」


コーヒーとホットミルクを持って戻ってきた椿兄
ホットミルクを受け取り一口口に含む
暖かくて甘い優しい温もりが身体にじんわりと広がり酷く安堵した


「これなんてすっごい可愛い」


部屋の壁には椿兄と梓兄のポスターが貼られているのと別に、私のポスターの方が圧倒的に多かった
その一つ、悪魔の羽付き黒いミニスカワンピースに身を包み棒付き飴を銜えた小悪魔風の私のポスター
それを前に椿兄は破顔している


「ねぇそれって10名限定のポスターだよね。早朝5時からファンが並んでたっていうポスターだよね。もしかして椿兄、並んだの?」

「俺だけじゃないよ!梓も棗も並んでたよ」

「は」

「因みに俺達が一番前☆」

「………」

「本当は10枚全部欲しかったけど協力してくれる奴が5人しかいなかったから2枚だけ手に入らなかったんだよー…」

「いや、何やってんのあんたら」

「鑑賞用と保存用に持つのは当たり前っしょ!」


当たり前じゃないって言いたかったが口を噤む
何だか、ムッとした

ポスターの本人が目の前にいるのに、ポスターに目を向けたまま甘く笑ったままなんて


ホットミルクと椿兄が持っていたコーヒーをベッドサイドに置き椿兄を押し倒し口付ける

目を見開き驚いている椿兄が見えたが無視して形のいい唇を舌でなぞる
薄く開かれたそこに舌を突っ込む
絡まる舌に交わる唇
私の唾液を椿兄に流し込むと、ごくりと椿兄の喉仏が上下に動いた


「はっ、はぁ」

「ん、風花?」

「私が目の前にいるんだから、私を見てよ。ポスターの私じゃなくて私を、愛してよ」


椿兄の瞳が喜びと欲に染まる
上に伸しかかっている私の腰元を撫で上げ服の裾から手を差し込んできた


「ストップ」


椿兄の手を止める


「ダーメ。今日は添い寝だけって言ったじゃん」

「ここまでしといてお預けかよー!」


不満そうな椿兄の横に倒れこみ擦り寄る
そんな私に溜め息を吐きこちらに身体の向きを変え腕枕をしてくれた
ちゅうっと頭にキスを落とされる


「椿兄、あったかい」

「、風花ってほんっとズルい」

「んーっ」

「まぁそんな風花が大好きなんだけど」


抱き締めてくれる椿兄に私も抱き締め返す
腕を交差し足を絡め隙間もない程ぎゅうっと強く痛いくらい



ベッドサイドにあるマグカップの中で黒と白が冷めきっていた



―――――
椿可愛いよすっごく可愛い
けど私の文だと可愛くならない!!!!

◇◆2012.05.27