突発的な話 | ナノ
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「あれナマエちゃん、怪我したのかな?大丈夫?ほら、僕が手当てしてあげるからおいで」
痛みを我慢し誰も気付いてくれない些細な怪我に、気付いてくれる
「今日教授に誉められてたでしょ。あの人に誉められるなんてナマエちゃんは凄いね…いい子いい子」
我慢を強いる「いい子」じゃなくて、ただ純粋に誉めて頭を撫でてくれる
「ナマエちゃん苺好きでしょ?あげるからほら、あーん」
マイが好きだから何時もマイの物になっていたケーキの苺を私が好きと気付いて、私に与えてくれる
ずっと欲しかった、頼れる人、甘えられる人、甘やかしてくれる人
与えられるばかりで私は彼に何か与えられているのか
一度そう聞いた事がある
「こらっ、僕が好きでやってる事だからナマエちゃんが気に病まないの……あぁそっか、今まで無条件に甘えられなかったんだっけ。うーん、ならさ、僕の傍にいて」
意味を理解していない私に柔らかく微笑み、私の頬を包み込むように撫ぜた
「甘えたな君を誰にも見せないで僕だけに魅せて」
「、」
「こんな可愛いナマエちゃんを知らないなんて可哀想な人達もいたもんだ」
ちゅ、とおでこから瞼、頬、鼻先と口付けが落とされていく
「ねぇ…此処にキスしても、いい?」
す、とイッキさんの細い指が私の唇を愛撫するように触る
カッと身体中が火照ったように熱くなった
「ねぇ、ナマエ」
きっと私の答えはあの時から決まっている
あの、誰もが気付かなかった私の絶望をその瞳で見抜き、優しく抱き締められたあの時から決まっていた
けど、
「イッキさんの瞳は、」
「ん?」
「私の全てを見抜く、から少し怖い」
私の言葉に驚いたようにその瞳を見開くが直ぐに自嘲的な笑みに変わった
「そんなことないよ」
「、?」
「確かに君の事なら些細な事でも気付ける自信はある…けどね君が僕をどう思ってるのか、どうしても分からない」
「…イッキさん」
「分からない、というより自惚れそうになってはその考えを打ち消してるよ……ナマエちゃんにこの目の力は効かないけど、僕自身を好きになってくれているんじゃないかって」
切なそうに苦しそうに言葉を紡ぐ私の大切な人
「ねぇ、ナマエちゃん」
「……分かり、ません」
「っ」
「好き、とかよく分からない…ですけどイッキさんの事すごく大切だと、思います」
「ナマエ、ちゃん」
「失いたくない」
まただ
この人の前だと虚勢も強がりも偽りも、全て剥がされる
涙が溢れて止まらない
私が、私でいていい唯一の人
「失いたくないんです…っ」
ぎゅっとまたあの優しい温もりに包まれる
「いいよ…今はそれでいいから、泣かないで」
「ごめんなさいっ、イッキさんの、優しさに甘えて…っ」
「もっと、」
「…、……」
「もっと甘えてくれていいよ、頼ってくれていいから」
好きとか、よく分からない
彼の瞳の媚薬効果は私には効かないけど私は確かに彼の瞳に捕らわれているようだった
それと今確かなことは
私はこの人を失えない
―――――
思った
今まで本当の自分を見てもらえなかったヒロインちゃんと、目の力だけで好意を寄せられたイッキってめちゃくちゃ相性いいんじゃないか?
ううむ、もうちょい続けたいけど書く気力が…、
◇◆2011.11.03