ない!…ない!
……どこにもない!!
胸ポケットにあったはずの生徒手帳がない!!


――なぜ私がこれほどまでに焦っているのかといえば、そこには大事な大事な基山くんの写真が挟まっているからなのであった…。


*青春を謳歌しよう*
これの続きです)



基山くんの見ていないところでこっそりと写メを撮るのがいつもの私。だから視線が逸れているものが多い。けれどもその1枚だけは基山くんの目がしっかりと私を見つめていたから、現像して持ち歩いていたのに…。きっと帰り道や学校で落としてしまったのだろう…。
既に帰宅していた私でだったが、急いで引き返すことにした。しかし、学校までの道のりを注意深く見つめていたけれど生徒手帳は見つからない。

教室に落ちているのが一番良い。もしくは、誰かが拾って持っていてくれること。(できれば写真には気付かないでいてほしい。)
一番最悪のパターンは基山くんが拾うこと。接点ができることはこの上ない幸せだけれど、もし写真を見られてしまったら全ての終わりだ。夢野さんってストーカーなの?…気持ち悪いね。とかいう言葉と共に蔑まれるに違いない。今世紀最大の羞恥プレイである、でも何だか良いかもしれない!!!
……それはさておき生徒手帳は落とし物入れにも靴箱にもなかった。残る候補は階段と教室だ。

「あ、」
階段へ向かおうとした先には基山くん。
「夢野さーん!」
大きな声で私の名前を呼んで手を振っている。
夢ではないだろうか、これは本当に現実なのか。目を閉じてもう一度開けてみてもやっぱり基山くんがいて、私に手を振っていて、こんなに嬉しいことはないってくらい心臓がバクバクし始めた。
「き、やまくんっ!おはよっ……じゃなくて、こんにちは?」
「こんにちは」
にこり。星が飛んだみたいに輝く笑顔である。
「夢野さんは部活?」
「いや、違うの…。落とし物を、探しにきたの」
「もしかして、生徒手帳?」
「え、えええええええええ!?何で基山くんが知ってるのーっ!?」と、叫びたいのを我慢して微笑んだ。多分ぎこちない笑顔だろうけど。
「どこかで、見た?やっぱり教室に落としてきたのかな…」
「ロッカーの近くに落ちてたんだ。だから、」
基山くんは左手で胸ポケットをごそごそと探った。その様子には嫌な予感しかしない。
「……拾ったんだ」
にこり。なんて星を飛ばさないで!
私はいつだって基山くんのことばかりを見つめて考えて……、そんな気持ち悪い女子だってことを知ってしまったら、きっと基山くんは笑顔を見せてくれなくなってしまう。そんなの、苦しくってしょうがない。
だからお願い。写真にだけは気付かないでいて…!
「ありがとう」
差し出された手帳を受けとって静かに開く。



写真は無かった。


一言も喋れない。写真が基山くんの手元にあるならば彼は確実に私を軽蔑しているだろう…。
「探し物はもう一つあるみたいだね」
目の前にあの写真が差し出される。
「生徒手帳を拾い上げたら、ページの間から落ちてしまったから」

………。
恥ずかしくて顔が熱くなって、駆け出したいのにうまく足が動かなかった。基山くんの顔が見れるわけがない。どんな表情をしているのか見なくても分かる。嫌がっているに決まってる、眉を潜めているに違いない。

「わ、わたし、…別に、…………」
基山くんのこと好きってわけじゃないのよ。――なんて言い訳は、嘘でも言えなかった。
好きなものに嫌いって言う。それはとっても哀しいことだから。
心の中が死んでいるみたいに静かになって、そんな私に基山くんの言葉が投げ込まれた。



「――嫌じゃないよ」




こう言われたい、という思いから生まれた幻聴だろうか。
じゃなきゃ、こんな言葉が聞こえるわけない。

「俺だって同じだから」

…ん!?
何が同じなの?

さっきみたいに差し出されたのは私がいる写真だった。
「あれっ…私の写真……」
「多分、夢野さんと同じ理由」
私と同じ理由って、もしかして、いや、そんなこと、そんなことってあるの!?そんなことあっていいの!?
静まりかけた心臓が再び波打ち始める。
「夢子ちゃん」
突然の名前呼びに驚く。
「いつも夢野さんって呼んでいるけれど、心の中じゃ夢子ちゃん呼びだし。夢子ちゃんがうまく写っている大好きな写真を何枚も現像して持ち歩いているし。暇さえあれば夢子ちゃんのこと目で追っているし。写メとか撮りすぎてケータイの容量がすぐ無くなるし。頭の中、夢子ちゃんでいっぱいだよ」
基山くんが涼しい顔でつらつらと述べる驚愕の事実に、脳の変換が追いつかない。けれど同じような行動をとっている人物を知っている。私だ。
「……実は…私も」
だから俯き加減に小さな声で応えた。



ぎゅっ

ひんやりとした基山くんの両手に私の両手が柔らかく包まれる。


急なことにびっくりして基山くんを見上げると、とてもとても輝く笑顔で「じゃあ俺たち両想いだねっ」と言われてキスされた。


基山くんってきらきらと夜空を駆けていく星みたいに、私の心を一瞬で明るく暖かくする。
宇宙でいちばん流星ボーイだね、なんて思いながら抱きしめた。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -