今日は外出許可が得られたから夢子をびっくりさせようと内緒で雷門中へ来ていた。警備員さんは僕を見た途端に快く校内に入れてくれて、そこまで有名なのかと思うと嬉しくも恥ずかしくなってくる。サッカー部の練習場を尋ねると、別校舎のようになっている建物がまるごとサッカー部のものだと教えてくれた。どうやら新雲に負けず劣らず施設が充実しているらしい。
(あ!天馬だ…)
グラウンドを見下ろすと、サッカー部が勢いよくボールを蹴っていた。二つのチームに分かれて練習試合をしているのか、かなり盛り上がっている。夢子はマネージャーをしているから、きっとベンチで選手達を見守っているのだろう。僕はグラウンドに続く階段を下りていった。
「あれ、君は……新雲学園の雨宮太陽くん?」
そんな僕に真っ先に気付いたのは、青い髪の女性だった。するとベンチにいた選手やマネージャーが次々に声を上げる。円堂監督は俺に笑顔を見せると、またその視線をフィールドに向けた。
「はい。病院で外出許可が出たので雷門のサッカーを見に来たんです!」
「そうなの!じゃあいくらでも見ていて良いわよ」
「ありがとうございます!」
と、控えの選手の隣に座ってしまったが本来の目的は夢子に会うことなのだ。しかし辺りを見回しても彼女の姿は見当たらない。そのうちにマネージャーのひとりと目があった。大きなリボンと釣り上がった目が特徴的だ。
「雨宮……だっけ?」
「は、はい」
年上らしい態度に思わず敬語が出る。
「夢子なら部室にいるからな」
「え?」
「女には何でもお見通しなんだよ。夢子の惚気話を聞いていれば相手が誰なのかなんて簡単に特定されちまう」
歯を出して悪戯っ子のように笑う彼女に顔が赤くなった。
「みんなにはあたしから適当に言っておくから、行ってこいよ!」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて!」
僕はベンチを後にしてすぐさまサッカー部の建物に向かって走り出した。

自動ドアが背後で閉まる。部員が全員外にいるためか外とは打って変わって静かだった。まるで人気がない。しかしスクリーンの前には夢子のノートパソコンが置いてあるので、施設内のどこかにはいるのだろう。
「夢子ー……」
天井が高いその部屋に僕の声だけが響く。ここにはいないと確信し、さらに先へ進んだ。
廊下を歩いていたその時、物音が聞こえた。きっとロッカールームからだ。やっと夢子に会える!と思いながらドアを開けると、まず飛び込んできたのは赤色だった。びっくりしてそれをもう一度見ると、誰かの髪色だったようだ。
「ああ、驚いちゃった?ごめんね」
背を向けているその人は見知らぬ男性だった。サッカー部のコーチ…ではなさそうだ。そして、彼に隠れてよく見えないけれどそこにはもう一人いるようで。きっと二人は"お取り込み中"なのだろう。中学校のサッカー部のロッカールームでいい歳した大人が何をしているんだ、と少々呆れてしまったがここは空気を読んで退出するべきだ。
「あ、じゃあ、失礼いたします……」
「いや、俺が出て行った方が良さそうかな」
ドアノブを掴んだところで彼が僕に言った。
意味有りげな言葉に疑問を抱き振り返ると彼の陰にいた人物と目が合う。
「夢子!!」
「あ、あ…雨宮くん…」
「どうして!?この人と何をしていたの!?」
裏切られた。そんな思いが浮かんでくる。…いや、いけない。夢子を疑っちゃだめだ。話を聞けば…納得できる理由があるかもしれない……。何度も何度も自分に言い聞かせる。
「今日もありがとう、夢子ちゃん」
男は俯いている夢子の胸ポケットに何枚かのお札を入れ、引き留める間もなく去っていった。今日も、ということは…僕の知らない間にいつもあの男と過ごしていたということなのか。
「夢子…何やってたの?」
「……」
無言のままの夢子に無性に腹が立って肩を揺すぶった。
「ねえ…夢子!?何か言ってよ!!僕、一日だけ外出許可が出たから1番に夢子に会いにきたんだよ?ずっとこの日を待ってたんだよ?なのに、なのに何で夢子はこんなことになってるのかな!教えてほしいな!!……僕はね、明日死ぬかもしれない今死ぬかもしれない命で毎日を過ごしているんだ。夢子との時間も同じだよ。これでもう一生会えないかもしれない、そう思いながら二人の時間を大切に大切に大切に大切に大切にしているんだ!どうして…。お金が欲しかったの?誰とでもいいから気持ち良くなりたかったの?いつからそんな雌豚になったのさ?ああそれとも、僕が勝手に両想いだって勘違いしていて、僕がずっとずっと一方通行的に好きを押し付けていたのかな!?」
頭の奥が熱くって煩くって堪らない。感情が止まらない。
「違うの!私は雨宮くんが好きだよ…」
好きと言われて安心してしまいそうになるけれど信じられない。だってさっきから視界に入るんだ、夢子の白い首筋にある赤い跡が。
「じゃあ、どうして、こんなものがあるの?」
「えっ…こ、れは…」
指摘すると夢子は明らかに動揺して隠そうとする。苛々したからその手を退けて自分の唇を押し付けた。そのまま噛み付くと夢子は厭らしい声を上げる。そんな声、初めて聞いた。どうせあの男に仕込まれたんだろ?最悪だよ。ただ感情に任せるままブラウスのボタンを弾いていく。僕の病気が感染ればいいのになあ、とか思いながら抵抗する夢子の肌に無理矢理赤い跡をつけた。いい加減励まし続けられる生活にはうんざりなんだ。僕の病気は一生直らないって誰かが言っていた。だから僕と夢子と同じベッドで死んじゃえたらいいのに。なんて。



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