目覚まし時計が鳴らなかったので私はたっぷりと寝ていたらしい。今朝は目覚めが良かった。とはいっても時計の長針は既に11を差していたから、少し寝過ぎてしまったかもしれない。まあ休日なのだから遅く起きて不規則な生活を送るのも悪くないかな。
この時間だと朝食よりかは昼食を作るのが好ましい。しかし、冷蔵庫の中には何もないのを思い出す。買い物にいかなければならない。と思うと億劫になって、私は再び布団の中に潜り込んだ。
その時、ふわりと私の持っていない香水の香りを感じた。驚いた。――彼が来ているのだろうか。
起き上がってガウンを羽織り、適当に身嗜みを整えて鏡を覗く。何だか冴えないから、彼の髪色と同じ赤いリップで唇をなぞった。
廊下を抜けてリビングの扉を開く。テーブルにはお皿がふたつ。物音のするキッチンに視線を向けると後ろ姿がひとつ。
「ヒロト?」
何やら作っているらしい彼は振り返り、にっこりと笑った。
「おはよう。キッチン借りてるよ」
「うん、」


大きな欠伸をして私はソファに身体を預けた。
思えば、休日にこうして二人で過ごすのは久しぶりだった。キッチンに立つ彼を見て思い出す。私たちは幼なじみだから昔から互いの家を行ったり来たりしていて、その頃から彼は私より料理が上手かったという記憶がある。
彼と共に沢山の思い出と年を重ねていくうちに私にとっては特別な存在になったけれども、しかしそれが恋愛感情なのかはよく分からない。彼は私をどう思っているのだろうか?以前より大きく見える背中を見つめながら、そんなことを考えていた。
「パンケーキ出来たよ」
彼はメープルシロップのくすぐったい匂いをリビングに運び、パンケーキとトッピングを皿に盛り付けた。


「…美味しい」
「本当?ありがとう」
「こちらこそ、作ってくれてありがとう」
そのやり取りが面白かったのか彼は小さく笑った。
「何ていうか、やっぱり夢子は変わっていないね」
「そう?」
「口数は少ないんだけど、一緒にいると暖かい。おはよう、とかありがとう、とか何気ない一言が優しく聞こえる」
ヒロトだって優しいよ。じわじわと心が熱くなった。それをごまかすようにフォークで生クリームを掬おうとすると、かつんと金属のものが触れた。不思議に思ってそれをフォークに乗せる。
「これっ……」
きらきらと光るリング。信じられなくて顔を上げた。視線が交わる。
「ずっと言い出せなかった。でも、俺は夢子のいる場所に帰りたいって思ったんだ。…だから、」
片手が掴まれ少し強引に引き寄せられた。




「家族になろうよ」



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