「いやああああああ!!!」
現在、午後12時。昨日から始めた引っ越しがやっと終わり、少し早めの昼食であるフレンチトーストを食べ、さあ私の部屋でのびのびとしようじゃないか、そう思ってベッドに身を投げ出そうとした時だった。そこには先客がいたのだ。しかも、男!
「あんた誰よ!?」
「君ね…、女の子なんだから、もっと優しい口の利き方をしなよ」
ベッドに座った謎の少年は盛大に溜め息をついた。髪の一部だと思われる触角のようなものがぴょこんと跳ねる。それが私を小馬鹿にしているようでなんだか悔しくなる。
「な、なななんで不法侵入者に優しくしなきゃいけないの!」
「まあ落ち着いて、僕の話を聞いて」
落ち着いてだなんて……、…いや、それもそうかな。見たところ可愛らしいけれど、こんな男の子こそ逞しく脚力が強かったりするから、下手に怒らせるととんでもないことになるのだ。(残念ながら、そんなことは雷門中サッカー部のマネージャー経験があれば嫌でも分かるようになってしまうのである)
「…話、聞くから」
勉強机の椅子を引っ張ってきて、少年の真ん前に座った。
「ふふ、ありがとう」
気のせいかな、少年が透けて見える。
「実は僕、「幽霊なんだとか言わないでよ?」
「よく分かったね!」
「当たっちゃったよ!!」
かなり本気で驚いている私を余所に少年は何故か楽しげだ。
彼は幽霊だというのに全然怖くない。先日、転校先を見学しに行ったのだが、むしろそこの同級生よりもフレンドリーだ。
「僕と話のできる人とは初めて会ったなあ」
あんまりにも嬉しそうに笑うものだから、少し気恥ずかしくなってしまう。
「僕の名前はシュウ。君は?」
「夢子、です」
「よろしく、夢子」
差し出された手を握ろうとすると、空を切ってしまった。
「ああ、手を握るふり、でいいからさ」
「えっ、…うん……」
こんなに近くにいるのに触れることができない。その事実を目の当たりにして、気分が落ち込んでしまった。
「どうしたの」
いけない、顔に出てしまっていたみたいだ。
「別に、なーんでもない!……それより、どうしてこの部屋にいたの?」
「僕は、……何ていうかな、ここに住み憑いているんだ」
「え!?じゃあ、これからずっと一緒ってこと?」
「うん」
「私のプライベート空間はどうなっちゃうの!?」
「ごめんね」
「私の着替え中はどうなっちゃうの!?」「ふふ、ごめんね」
シュウはほんのりと頬を赤らめた。
「……変態」
「まあ、僕のことは気にせずやってよ」
「仕方ないなあ…」
こうして私と彼の不思議な同居生活が幕を開けたのであった。






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