音無には好きな人がいるらしい。そんな噂を耳にした。


「そういえば音無、好きなやつができたんだって?」
「えっ!ちょ、ちょっと夢子ちゃんってば!そんなこと誰が言ってたの!?」
「風の噂でね」
弁当の時間は決まって屋上で食べる。夏は暑くてたまらないが、春や秋には心地好い風が吹くのだ。
音無はピンクの箸を振りながら、例の噂を必死に否定している。私達は親しいのだから隠さなくたっていいじゃないか。頬を膨らませそれを訴えると、音無は「まあ、そうだけど…」と言葉を濁らせた。
「じゃあ、夢子ちゃんは好きな人いないの?」
急に私の話になり驚く。
「いるわけがないだろう。この私が恋愛だなんて笑えない冗談だ」
「何言ってるの!夢子ちゃんは綺麗だし髪だって可愛いポニーテールだし…」
「音無が髪を伸ばせってうるさいからな」
「えへへ……」
苦笑いをする音無に態とらしく溜め息をついて、私は最後の佃煮を頬張った。


得意教科の数学など完全に見くびっている私は、黒板ではなく斜め前の男と女を見ていた。隣同士で恋仲のようで、頬を染めている様子にこちらまで恥ずかしくなってくる。
音無と話した後、結局私は愛だとか恋だとかについてずっと考えている。休み時間に「カップル」と呼ばれている奴らを凝視していたら怪しまれてしまった。
女は男に、男は女に。何故、異性同士というものは、あれ程惹かれ合うのだろうか。友人に向ける気持ちとは、どう違うのだろうか…。



翌日の昼休み、大きく口を開け卵焼きを頬張ろうとしている音無に質問を投げかけた。
「恋をするとどんな気持ちになるんだ?」
すると音無は急いで卵焼きを飲み込んでから、なぜか目を輝かせた。
「夢子ちゃんと女子トークができるなんて!!」
「女子トーク!?何を言っているんだ!わ、私がそのような、女の子らしい可愛らしいことをするわけがないだろう!」
必死に否定しているのに、音無は私の両手を握りしめ詰め寄ってくる。
「夢子ちゃんはもっと素直にならなくちゃ!気になるんでしょ?恋ってのが……!!」
「いや、だから私は…」
その後音無は昼休みが終わるまで延々と喋り続け、さらには休み時間や放課後まで喋り通したのであった。


「告白してきます!」
数週間後、私の昼休みは音無のその言葉で始まった。
「……!やっぱり音無は好きなやつがいたんだな!」
「うん!」
音無は弾ける笑顔で頷くと屋上から駆けていった。
しかし、いつまで経っても戻ってこない。これは先に教室に帰っていていいのだろうか。空の弁当箱を目の前に私は少し寂しさを感じていた。
「夢子ちゃん」
突然後ろから声をかけられた。と同時に抱き着かれる。
「音無……?」
普段とは違う雰囲気に少し驚きつつ、そっと後ろを振り返る。
「うん」
「告白どうなったんだ?」
「まだしてない。だから今からするの」
「早くしないと昼休みが終わってしまうよ」
それが言い終わらないうちに音無は、








「好き」と囁いた。
驚いて身体が跳ねる。
「お…音無、告白って…」
「もちろん、夢子ちゃんに」
「じょ、冗談だろう?音無にはもっと相応しい男がいるはずだ!」
「誰も女の子同士がだめだなんて言ってないもん。それに夢子ちゃん、嬉しそうだよ」
「そんなっ……」
後ろから私の顔を覗き込みにこにこと笑う音無。
今この状況に顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
音無の口元が耳に近いため、息が触れてくすぐったい。
「ほら、私が小声でお話しただけですぐにドキドキしてる」
まさに図星だった。
「頬っぺた赤くして俯いちゃって、夢子ちゃんって私のことが好きなんでしょう?」
音無は何でもお見通しなのだ。




この気持ちだけは譲れない
(すき、すき、だいすき!)



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