夜桜くんはいつもひとりだった。教室では常に本を読んでいて、話し掛けられてもあまり答えない。授業は真面目に受けているようで寝てる姿など一度も見たことがなかった。時々、ウェーブがかった長い髪を一つに束ねていて、そんな日は彼の美しい横顔をはっきりと見ることができる。
そんな夜桜くんと友達になったのはつい先週のことだった。二人で日直をしたのがきっかけ。黒板の上の方を消そうと椅子に乗った私がバランスを崩し倒れそうになったのを、助けてくれた。何とまあ三流少女漫画のようなきっかけなのだろうと思う。…とかく、きっかけはどうであれ私は夜桜くんと友達となった。

「サッカー部…?」
「うん。夜桜くんも部活に入ってみたらどうかな」
夜桜くんはいつもの五割増しで隈が濃い。聞けば、不眠症らしい。
「でも、俺があのサッカー部なんて……」
「思い切りスポーツすれば、ぐっすり眠れるよ」
「俺のこと考えてくれるなんて……、君は優しいな」
「ううん、そんなことないよ」
そんなことない。
私は、優しくない。


数日後、夜桜くんはサッカー部に入部した。隈は上からアイメイクで隠し、髪は二つに団子結びにした。所謂イメージチェンジというやつ。ガラリと印象が変わり、いかにも体育会系な男の子に見える。

それからまた数日後、夜桜くんはフィフスセクターの話を持ち出した。管理サッカーだとか聖帝だとか。もうそんなに沢山知っているんだ…。
「シードになったら願いをひとつだけ叶えてくれるらしい」
「ふうん…」
「俺はね、夢野さんの願いを叶えたい」
「私の…!?」
「ああ。君の願いを教えて?」
普段なかなか見せない笑みを浮かべながら、夜桜くんは私を見つめた。
「…私は夜桜くんと××したいな」
「そんなの聖帝に頼まなくても俺がしてやるよ」
夜桜くんは随分と積極的になったなあと感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。



練習試合を見に行くと、シードとなった夜桜くんは明るくサッカーをしているようだった。明るく、楽しそうに、狂ったように笑いながら、サッカーをしていた。

こんな夜桜くんが見たかったわけじゃないのにな。


ただ、夜桜くんがシードになってくれればよかっただけなのに。






―――

〈補足〉
ヒロインはフィフスセクター側で、シードを増やすため夜桜に近付きました






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