騒々しい雑音が向こう側からやってくる。廊下にいた男子は音を立てずに自分の教室に入った。私は勿論男子ではないが、静かに教室に入り席に座る。なぜなら、あの連中に出会いたくなければ誰だってそうするしかないからだ。あの連中とは言わずもがな、黄色い声を上げながら媚びる親衛隊の女子たちとその中心にあるミストレーネ・カルス。しかし私は不運にも彼のクラスメイトだった。


「ちょっと、君」
「なに?」
新学期当初はミストレーネと会話をするだけで彼の親衛隊に睨まれた。が、私が彼に好意を抱いていないことが分かると彼女達はちらりともこちらを見なくなった。私が観察をするかぎり彼女達は単純で、低能で、面倒な女の集まりだ。
「何でオレの親衛隊に入らないわけ?」
「特に理由はない」
「じゃあ入りなよ」
「なぜ」
「オレの近くにいられる、それだけで充分だろ?」
こいつは自己陶酔者だったなと思い出す。しかし何がしたいのかさっぱり分からない。私と話していても楽しい暇潰しにはならないだろうに。
「それより、ね、君ってその長い前髪を切ったら美人なんじゃない?」
「お前に私のことをとやかく言われる筋合いはない」
「とか言いながら、オレと話せて嬉しいくせに」
「馬鹿者。自惚れるな」
担任が教室に入ってきてホームルームを始めたから、ミストレーネを無視して前を向いた。好きとか嫌いとか、友情とか愛情とか、そういったものは全て中学に残してきたまま、今も私の心には、 ない。

「差し詰め難攻不落の要塞ってとこかな」
「何の話だ」
性懲りもなく話しかけてくるミストレーネに嫌気がさし、私の口数は次第に少なくなる。私と話してみても良いことなんて何も無いのに馬鹿みたい。
「夢子ちゃんのことだよ」
「気持ち悪いな」
「ふふ、つれないね」
「ああそう」
ミストレーネが笑うと小さな八重歯が顔を出した。
「でも、これだけは分かってよ。オレが知らないことなんて何もない」
ミストレーネの自信過剰に自然と大きな溜息が出た。阿呆らしくなって目を逸らしたその時、彼が顔をぐいと近付けて言った。
「君、照れ隠ししているんだろう?」
「なっ……」
急に顔が熱くなって身体が動かなくなった。わけが分からない。なぜ私は焦っているのだ?照れ隠しではないと言いたいのに、言葉が上手く出てこない。
「ほらね?図星でしょ」
こいつが顔を近付けるなど普段しないことをするからいけないのだ。
ミストレーネは鼻先数ミリの近さで自信たっぷりの笑みを浮かべている。その笑顔でこれまでに何人もの女を口説いてきたのを私は知っているぞ。ええい、死んでも惚れるものか。





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