「私の氷はちょっぴりコールド、」
「あ、貴方の悪事を完全ホールド…!」
私は、新米ヒーローのイレーヌ。ちなみに本名は夢野夢子。同じネクストなので、あのスーパーアイドルヒーローのブルーローズさんとコンビを組んでいる。
アカデミーでは1番の成績で卒業したけれど、やっぱり実際に戦うことは難しい。
『ブルーローズが犯人に向けて攻撃!続けてイレーヌも攻撃…するが、またもや外れてしまったあ!!』
「イレーヌ、しっかりして!」「ごめんなさい……」
結局私の攻撃は1発も当たらず事件は解決し、今日もゼロポイントだった。

「はあ……」
「イレーヌお疲れ!溜め息ついてると幸せが逃げちゃうのよ?」
「はーい…、」
本当はこんなはずじゃなかった。当初は気が利く後輩キャラで売り出す予定だったのに、私があまりにも失敗をするから、ドジッ子後輩キャラになってしまったのだ。でもキャラじゃなく本当にドジしてしまうのが悩みである。
それから私は、ジムで軽くトレーニングしてから帰宅した。
シャワーを浴びてテレビを付けると、丁度ブルーローズさん出演の炭酸飲料のCMが放送している。
「ブルーローズさん可愛い!これならみんな買っちゃうね」
なんて独り言を言う私の手には、その炭酸飲料が握られていたりする。
「それにくらべて…」
ピンクと白のレースがふわふわと揺れるヒーロースーツを着てお菓子の宣伝をする冴えない女の子は、私。
「このスーツ、明らかに戦う気ゼロって感じ……。でも、まあ…仕事だし?仕方ないかな…」
明日こそはと意気込み炭酸飲料を飲み干した。


「おはようございままーす」
「あっ…夢子さん、おはよう」
珍しく人気のないジムには、これまた珍しい人物がいた。
「お久しぶりですカレリン先輩!」
カレリン先輩はアカデミー時代に親しくなった先輩で、本名で呼び合う仲だ。
「先輩がジムにいるなんて珍しいじゃないですか」
「そう、かな?」
「ふふ、一緒に頑張りましょうね!」
それから私は何時間かトレーニングに夢中になっていた。もっと強く、もっと強く、もっと強く。みんなを守るのが私の役目なんだから頑張らなくちゃ。
「ふう…そろそろ休憩しようかな……、うわっ」
スポーツドリンクを飲もうと立ち上がったとき、急に頭がくらくらして倒れそうになってしまった。
「大丈夫?!」
そんな私を支えてくれたのはカレリン先輩だった。
「せ、先輩…!ありがとうございます」
「頑張りすぎじゃない?」
「そんなこと……」
また頭がくらくらしてきた。ぎゅっと目をつぶり、気持ちを安定させようと努力した。
「夢子さん!」
「えっ、せんぱ、…ちょ、ちょっと待ってください!」
先輩は私の腕を掴みジムの外に連れ出す。
「待たないよ」
いつもと違う強引さに驚く。ぐいぐいと引っ張っていくなんて、らしくない。

「ここ座って」
到着したのは近くにある大きな公園のベンチ。この公園はシュテルンビルト市民の憩いの場でもあり、子供達の遊び場でもあり、そして恋人達のデートスポットでもある。
「深呼吸すれば気分転換になるよ」
鼻から息をすうっと吸い込みゆっくりと口から出す。その動作が何回も繰り返されるうちに、心が落ち着きを取り戻してきた。
「…カレリン先輩、ありがとうございました。すっきりしたのでまたジムでトレーニングしてきます」
「ま、待って!」
私が言葉を言い終わらないうちに先輩が引きとめる。
「あ、あの…夢子さん」
「はい」
「最近、悩んでることはない?……よかったら僕が話を聞くから…、先輩として」
一番付き合いが長い先輩には、悩みがあることがバレていたらしい。空回りしてしまうこと、コンビとの差のこと…全て打ち明けた。
「だからあんなに頑張ってトレーニングしてたんだね」
「…はい」
「でも、無理しすぎはダメだよ」
「無理なんかしてないです!」
「じゃあ…仮に夢子さんが無理をしていなかったとする。もしトレーニング中にコールが鳴ったらどうするの?」
「もちろん出動しますよ」
「へとへとに疲れてるのに?」
「……」
私は何も言い返せなくなってしまった。
「夢子さんは頑張りすぎ。多分、力が入りすぎて緊張しちゃうんだよ。たまには深呼吸してゆっくり休んで、ね」
カレリン先輩は私の目を真っ直ぐに見てにこりと微笑んだ。
「僕は夢子さんのこと応援してるから」
「ありがとう、ございますっ……」
あれ、視界がぼやけてるのはなぜ?頬を伝うそれが涙だと気付いた瞬間、私は声を上げて泣いていた。
「せ、せんぱ、い…抱き着いても、い、いですか?」
「えっ、あ…あの、……うん、」
次から次へと涙が零れ先輩の衣服を濡らした。きっと私は誰かにこう言われたかったのだ。頑張りすぎだよ休んでいいよ、と。先輩にそれを言わせた挙げ句に抱き着くなんて、私はなんて嫌な女なんだろう。そうは思いつつも、まるで兄のような、先輩の優しい温もりから、離れることはできなかった。





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