神童率いる雷門イレブンは準決勝に勝利し、決勝戦に進むこととなった。

安堵の気持ちが大きくて、それと同時に疲れが出てきて、

「うーん……」

大きく伸びをするとオレはその場に倒れこんでしまった。










目が覚めるとそこは見たことのない場所だった。オレの部屋でも雷門中でもない、見知らぬどこかだった。
起き上がろうとするも身体が思うように動かないから、仕方なく眼球だけを動かす。
目に入ったのは身体に繋がっている細いチューブと点滴の袋。
ああ、きっとここは病院なんだ。いつの間にかオレはケガでもしちゃったんだ。


ふと、部屋に人が入ってくる気配を感じそちらを見ると、知らない女の人と目があった。



「…え………。うそ……」

彼女は大きく目を開きオレを見つめるが、オレは彼女を知らない。わけが分からなくて無表情でいるオレに対して彼女は次第に笑顔になってゆく。やっと会えたね、だなんて言い出しそうな笑顔に。
そして彼女はオレに抱きついた。涙を浮かべて満面の笑みを浮かべて言う。
「目が覚めたのね……!?××くんっ!!」
突然、激しい頭痛がしてオレは表情を歪める。
「ご、ごめん…。いきなり抱きつたら驚いちゃうよね」
「そうじゃなくて、」
身体の感覚が戻っていたのでベッドから半分だけ起き上がり、取りあえず彼女を離した。
「オレはお前のことを知らない」
途端に彼女の表情が曇る。
「な…何言ってるのよ……。私たち、ずっと一緒だったじゃない。ずっと一緒で、でも私はあなたが悩んでいることに気がつかなくて………」
「ごめん、本当に知らないんだ。それにオレの名前は円堂守。お前の言ってるそいつとは、人違いだ」
「そんなのおかしいわ!!私はあなたが…」
「どうかしたんですか夢野さん」
「先生…!!この人、記憶喪失…みたいなんです」



それから担当の先生に全ての話を聞かされた。
《オレ》は十年前に自殺をしようとし助かったものの、それからずっと昏睡状態だったらしい。そのとき恋人だったのが夢野さんで、看病をしていてくれたそうだ。
しかし、オレには円堂守としてサッカーを愛し雷門中の監督になったという記憶しかない。
聞けば雷門中なんて学校は存在していないし、ホーリーロードなどという大会も存在していないと言われた。

「おそらく…、長い夢でも見ていたのでしょう」


嘘だ。そんなの嘘だ。
これまでのオレやサッカーや仲間達を否定するなんて許さない!
けれど夢野さんの顔を見ていたらそんなこと言えなくなってしまった。
きっとオレじゃなく《オレ》を心配しているんだろうけど、それでも自分のせいで誰かの悲しい顔を見るのは嫌だった。


「……分かった。じゃあ、少しずつ、思い出していくからな!」
「××くん…!!」
相変わらずその名前を聞くと頭痛がするが、当分オレは××くんなのだ。



その夜、どうしても寝付けなかった。オレのこれまでとこれから。どちらかが夢なのかどちらも夢なのか。
考えれば考える程分からなくなっていくけど、考えずにはいられなかった。だって、オレは円堂守だ。と堂々と信じられなくなっていることに気付いたから。
試合中にいくらケガをしても、仲間を思えば痛みなんて感じなかった。それは夢だから痛みを感じなかったのか?
仲たがいをしても、相手を信じ続ければ和解できた。それは夢だから思い通りになったのか?
じゃあ××くんが存在し円堂守が存在しないこの世界では、信じても信じ続けても……













あのまま眠ってしまったらしいオレはうっすらと目を開けた。

そこに映るのは幼なじみである秋の顔。



「…あ、目が覚めたのね!!突然倒れるから心配しちゃったわよ!次の決勝戦も応援してるからね、円堂くんっ」




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -