それまで黙り込んでいた彼が口を開いた。
「俺たち、生まれてくる時代を間違えたんだよ」

山奥にある、小さくて静かな喫茶店。そこに彼の声が響く。22音で構成されたそれは、彼の向かい側に座る彼女の耳に入り鼓膜を震わせ、やがて脳へと伝えられた。
「どうしたの、突然そんなことを言って…」
「だってそうだろ?互いに想い合っているのに、今の時代じゃ……。…結ばれないんだよ」
憂いを顔に浮かべる彼が頭を垂れると、青く美しい髪がさらりと肩に落ちた。時たま悲観的になってしまう彼は、今もまた彼女を傷付ける言葉を吐いてしまった。
結ばれないという事実は充分に理解している。しかしそれを改めて言われると、彼女の胸は苦しくなってしまう。
「ごめんね、私がこんなだから……」
「お前は悪くない!!…悪くないよ。大丈夫さ、きっと俺がなんとかしてみせる」
立ち上がり彼女を抱きしめる彼は町で有名な資産家の息子。抱きしめられ彼に身体をまかせる彼女は貧しい使用人の娘。
運命は、結ばれることのない2人を出逢わせてしまった。




そして数日が経った。

海岸沿いの道で彼女は痛みに堪えていた。内側からの痛みではなく、外から与えられた痛みだ。それは今まで感じたことのないような痛みだった。例えば毎日調理されている食材が感じているだろう痛み、のような。それらはいつも包丁でざっくり切られる。が、しかし彼女は包丁でざっくり切られているわけではない。ナイフで腹部をぐさりと刺されているのだ。
彼女は顔を上げた。そして大いに驚いた。なぜなら彼女を刺したのは、恋人だったから。
「な、なんで……?」
「思うに、今の時代じゃ俺たちの結婚は無理だ。しかも俺はいずれ決められた相手と結婚することになる。このままじゃ辛いだけなんだ」
「死ぬなら…ふたりが、いいな」
「ごめんな。俺は一人息子だから、死んだら後継ぎがいなくなるんだよ」
「ふふ、…いつも…じぶ、んかって、…なんだ、から…」
痛みがずきずきと増していく。彼女は苦しそうに微笑んだ。
「でも、…すきだっ、たよ…」
「俺もお前が、大好きだ。お前が死んでも、ずっと大好きだ。だから、」
彼はナイフを引き抜いて、言った。


「――生まれ変わったら、また会おうな」



ばたりと倒れた彼女はまもなく大量出血により死亡した。


さよなら、またね



数十年後、雷門中にて

「今日からマネージャーを務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「俺は風丸一郎太だ。よろしく、」


二人は再会した。








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