昨夜雨が降ったらしく通学路に水溜まりができていた。朝の澄みきった青い空を映した水溜まりはとてもきれいで、もうひとつの空が地面にあるようだった。地面の空を壊してしまわないように夢子は水溜まりを避けて学校へと向かう。
(あ、照美くんだ)
夢子の先にはクラスメイトの亜風炉照美が颯爽と歩いていた。金色の髪をなびかせて歩く様子は男の子とは思えない程優雅だ。照美くんの細い腕は握ったらポキリと折れてしまいそうだな、と夢子は照美の後ろ姿を見ながら考えていた。いつか照美くんが振り向いて私の手をとってくれたらいいな、と思い始めたのはいつ頃からだっただろうか。

――ぴちゃん、

「あ…!」
夢子が無意識に声をあげてしまった理由は彼女の足下にある。黒い革靴と白い靴下は濡れ、水溜まりは波紋を広げていた。
(照美くんばっかり見てて水溜まりに気付かなかった…)
ため息をついて濡れた靴下をどうしようかと考えていると夢子に話しかける者がいた。
「大丈夫かい?」
(この声はもしかして、)
ちょっぴり期待をもって顔を上げその人物を見た夢子は大きく目を開いた。
「てる、照美くん!?」
「僕の名前、知ってるんだ」
「はい…、えっと……」
何故話しかけられたんだろう、どうすればいいんだろうと疑問が浮かびおろたえる夢子に差しだされたのは照美の手。
「早く行こう?学校に遅れてしまう」
「手、握ってもいいの?」「もちろん」
照美の手は予想通りすべすべで細くて、でも予想以上に温かく人間味があふれていた。


(この温もり、好きだな)



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