雲ひとつない青空に太陽が眩しく輝いている。天気予報によると今日はずっと晴天らしい。暫く雨は降らない、とも言っていた。


私の学校には小さな庭がある。きれいな庭だと生徒からも先生からも評判が良い。ちょうど今の季節はヒマワリが多く咲いている。
「あと少しっ…」
そんな庭で私は今日もひとりで花の世話をしていた。
小さい頃から植物が好きだった私は、小学校のときと同じように中学校でも生物委員になった。一年中、植物に水をあげたり雑草を抜いたり、時には肥料を買ってきたりと何かと大変な委員会である。けれどこの地味な作業の積み重ねが、きれいな庭をつくりあげているのかと思うと、達成感がありやめられない。とは思いながらもやはり今日のような真夏日だとつらい。帽子、タオル、うちわ、ペットボトルを準備してもなかなか暑さはしのげないのだ。
夏休み、今頃みんなは冷房が効いた部屋でアイスでも食べているのかと思うと恨めしくなってくる。誰か気を効かせて手伝いに来てくれる人はいないのか。そもそも、もうひとりの生物委員はどこへ行った。
汗を拭い、ペットボトルのぬるくなりきった麦茶を飲んだ。よし、あとちょっとだ。がんばる。
「ふう…」
少し時間が経って、私の手はさっきよりも土まみれになった。だけど、目の前の庭はきれいになった。雑草はなくなったし、水をあげたからか心なしか花が生き生きとしてみえる。やっぱりこの達成感が大好きだ。
一息つこうとその場に座ろうとしたときだった。
「ひゃ…!!」
突然、冷たいものが頬に押し当てられた。びっくりして後ろを振り向くと、そこにはヒロトがいた。
「お疲れ、夢子」
頬の冷たいものはサイダーの缶だった。
「こういうのってよくマンガであるでしょ?一回やってみたかったんだ」
にこりと笑ったヒロトにつられて笑い、サイダーを受けとった。一口飲むと炭酸が口の中でしゅわしゅわ溶けた。
「ありがと」
「夢子は頑張りすぎだよ。たまには休憩したら?」
「もう終わったとこだから大丈夫。片付けするからちょっと待ってて」

庭道具を片付け終え、ヒロトの待つ校門に走る。ヒロトの傍には真新しい自転車があった。シンプルなデザインで銀色をしている。
「自転車買ったんだね!」
「うん。なんでこの自転車にしたかっていうと、」ヒロトは自転車の後ろを指差した。「夢子を乗せていけるからね。…ほら、乗って」
「おお…!!じゃあお言葉に甘えて…」

二人を乗せた自転車が走り出す。心地好い風が吹いて気持ち良い。まるで時間がゆっくりと流れているみたいだ。
ヒロトがこの自転車を選んだ理由に嬉しくなった私は、少しだけ勇気を出してみることにした。目の前にあるヒロトの背中に手を伸ばして、抱きしめたのだ。ちなみに、いつもの私ならこんな積極的なことはしない。
「ん?どうしたの、夢子」
その背中は思っていたよりもずっと細かったけど、なぜか安心した。ヒロトの背中に頭をくっつけた。心臓の音が聞こえる。あんなに白い肌をしていてもちゃんと血液は流れているらしい。あたたかかな背中だった。
「ううん、何でもないよ」

ああ、私は今とても幸せです。






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