俺の彼女である夢野は生徒会長だ。雷門中は生徒が多く、全てを取り仕切る生徒会長というのは重要な立場にある。だから当然忙しいわけで、恋人同士とはいえ滅多に話すことができない。つまり廊下ですれ違った時に挨拶をするだけの毎日なのだ。俺達が付き合い始めた二年生の時、夢野は今ほど忙しそうではなかった。そのため互いの気持ちを深め合い付き合うことができた。しかし今では…あんなに仕事をこなしていて健康面がとても心配だ。ご飯はちゃんと食べているのか、夜はゆっくりと寝ているのか、たまには趣味を楽しんだりしているのか。俺が夢野のためにしてやれることはないのだろうか。

そう思った俺は以前お世話になった、ある人物に電話して相談してみることにした。優しい性格を持ち女子に人気で、ライバルでもあり仲間でもある雪国生まれの彼、吹雪士郎に。
「風丸一郎太だけど、」
「ああ!風丸くん久しぶり!!どうしたの?」
「ちょっと相談があるんだ」
俺は夢野とのことを相談した。すると良い返事が返ってきた。
「明日はバレンタインデーでしょ。だから逆チョコあげてみたらどうかな?」
「ギャ、ク…チョコ?」「男の子から女の子にあげるチョコのことだよ。まだ間に合うだろうから、手作りにしてみたりして、ね」
「さすが吹雪!…そうだな、逆チョコって、いいかもな。ありがとう!」
「どういたしまして、風丸くん頑張ってね!」
電話を切った後、家にあるお菓子作りの本を読んでみた。トリュフなんて良いかもしれない。
「よしっ…」
俺は早速スーパーに材料を買いに行った。



眠い。とっても眠い。昨晩は卒業式のための書類確認で寝るのが遅くなってしまったのだ。この学校の生徒会長は二人いた方が良い、と思えるほど忙しい。しかし立候補したからにはやり遂げたい。任期はあと一ヶ月だ。頑張れ私。
学校へ着くとみんながいつもより騒がしい。何かイベントでもあるのだろうか。
「音無さんおはよう!今日って何かあったっけ?」
「おはようございます、先輩。今日は、」
音無さんはビシッと誰かの靴箱を指差した。そこには溢れんばかりのお菓子が入っている。
「バレンタインデーですよ!」
「バレンタインデー…、そうだ、そうだった!!うわ…どうしよ……どうしよう!!私チョコつくってないっ!!!」
「せ、せせ先輩、落ち着いてください!早く帰ってつくれば間に合いますよ!!」
「ああ、そうだね、うん、そうだそうだ…がんばらなきゃ」

しかし放課後、私には委員会集会が待っていた。月に一回だけのこの集会はとても重要で絶対に欠席できない。案の定それは長く続き、終わった頃には外は暗く学校は静かだった。
風丸くんは帰ってしまっただろう。チョコは渡せなくとも、何か話がしたかったのに…。
とぼとぼと一人で階段を下りる。そんな私の目に見覚えのある姿が映った。綺麗な青い髪をポニーテールにしている彼は、まさしく風丸くんだった。
「風丸くん、こんな時間にどうしたの?」
「ああ、やっと来たな。夢野のこと待ってたんだ」
「わたし…?ごめんね、チョコ用意できなかった…」
「そんなことだろうと思って、はい」
風丸くんは私に小さな袋をくれた。
「これは?」
「逆チョコだよ。男子から女子にあげるやつ。…材料買ったとき、女子ばっかで恥ずかしかったんだからな」
「ふふ、お疲れ様です」
顔をほんのりと赤くした風丸くんはなんだか可愛かった。そのくせ、逆チョコをくれるという、かっこいいこともしてくれる。そこが私の好きなところでもある。
「じゃあ、帰ろうか」風丸くんの左手が差し出された。
「…ん?」
「手、繋いで帰ろう」
風丸くんはにこりと笑った。その笑顔につられて私も笑い、風丸くんの手を握った。
学校を出て歩く。二人とも無言だったけど、不思議と温かい気持ちになる。
「あのさ、」
風丸くんが突然立ち止まった。
その顔が近付いて、そして頬に何かが触れ、顔が離れた。スローモーションに感じられた数秒間、私は風丸くんにキスをされていた。
「好きだ、夢子」




(……心の臓とやらがうるさい)



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