「夏彦、これあげるっ!」
お日さま園で俺は、なぜか幼なじみからチョコレートを貰った。買ってこいとパシリをしたわけではない。なんでだ。
「おい、なんでチョコレートなんだ?」
「な、なんでって…それを聞くのは野暮ってもんよ。乙女心を察しなさい!」
「オトメゴコロ?俺は男だから分かんねえよ」
「なにそれ。それじゃあ私に言わせる気?…夏彦のばか!」
夢子は顔を真っ赤にして走り去ってしまった。あれは何だったんだ…。俺は何かカンに障るようなことをしてしまったのか。
考え事をするときの癖でバンダナをずり下げて唸っていたら、誰かに頭を叩かれた。
「ったく、…誰かと思えば涼野風介か。何のようだ涼野風介」
「私をフルネームで呼ぶな。ところで、今のやり取りを私はこの目でしっかりと見たよ」
「だから?」
「ふっ、君は全く乙女心が分かっていないねえ」
「お前は乙女心ってやつが分かるのか」
「ああ、少なくとも君よりはね」
腕組みをして俺をニヤニヤと見下ろす涼野風介に無性に苛立つ。…身長的な問題で仕方ないのだが。
「まず、今日は何の日か知ってるかい?」
カレンダーを見ると、2月14日とある。建国記念日は終わったし、そもそも今日は休日ではない。
「はあ?何かの記念日なのか?」
「君、何も分かっていないようだね」
「俺を憐れみの目で見るな。で、今日は何の日だ?」
「St.Valentine'sDay…だよ」
流暢で素晴らしい発音だが、残念ながら俺にはさっぱりだ。そんな俺の様子を見て、涼野風介は大袈裟にため息をついた。いちいちむかつくやつだ。やっぱり元ダイアモンドダストとは気が合わない。
「女が、好きな男にチョコレートをあげる日なのだ」
「好きな男に?ん、待てよ。それじゃあ夢子は俺のことが……なわけないな!有り得ない」
「ふっ、君もつくづく馬鹿な男だ。顔が赤くなっているよ」
顔に手をやると確かに熱いので慌ててバンダナをずり下げた。夢子が俺を好きだ?勘違いだろう。なぜなら俺は、俺が……。ある答えにいきついた途端、足が勝手に走り出した。後ろで涼野風介が何か言ったようだが気にせず前へ進んだ。


夢子はお日さま園の庭にいた。ブランコに乗り空を見上げている。
「夢子!」
「ん?ああ、夏彦か。どうしたの」
ポケットから先程のチョコレートを取り出して口に入れると、それはとても美味しかった。ふんわりとした甘さが広がる。
「これ美味しいな」
「そう、良かった!」
だったらもっと笑ってほしいのに。笑顔が、暗い。
「今日はバレンタインデーなんだってな。実を言うと俺、バレンタインデーのこと知らなくて。だからさっきはごめん」
「バレンタインデーを知らない?え、…冗談でしょ?」
「冗談じゃないんだ」
夢子目を丸くしてとても驚いている。ぱくぱくと口を開いたり閉じたりして、そして息を吸い込んだ。
「えええええ!!!!うわっ…本当に知らないの」
「そ、そんなに驚くなよ!知らなくてもいいじゃねえか。それより、」
思い切って夢子に向かい一歩進んだ。あ、やばい進みすぎた。互いの顔の距離がとても近い。
「夏彦、近いから離れて」
「……離れたくない」
夢子の目を片手で覆い、そのまま触れるだけのキスをした。甘くてふんわりしているから、キスってのはチョコレートみたいだ。俺は唇を離し夢子の耳元で囁いた。
「好きだ」
「な…つひこ……」
夢子の目元を覆っていた手をそっと取ると、その目は濡れていた。それを指で拭ってやると夢子はとても嬉しそうに笑った。
「ありがとう、私も好きだよ」




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