靴箱を開けると、甘ったるい匂いを纏ったものが沢山落ちてきた。リボンやレースで飾りつけられているそれらを見てため息が出た。
「おはよ、ヒロト!…って、今年もすごいな」
「おはよう。でも風丸くんだって人のこと言えないくらいだよ?」
「まあ…、全部食べ切れないからほとんど円堂にあげてるんだけど」
苦笑いをする風丸くんの手元には、沢山の小さな箱や袋。
「それに、実はチョコってあんまり好きじゃないからさ」

今日は2月14日。
バレンタインデーだ。


教室に入ると女子達が落ち着かない様子でざわついている。ひそひそ声のつもりなんだろうけど内容が丸聞こえ。チョコが、本命の、今年は、恥ずかしい、チョコ、チョコが、手作りだから、絶対に、……。すごく鬱陶しくて耳障りだ。
俺の机には山積みされた沢山のチョコ。靴箱にあったチョコを入れた紙袋に、机の上のチョコも入れる。一際大きくなる女子達の黄色い声。俺がこれを持ち帰るとでも思ってるのかな。
去年は教室のごみ箱に捨てた。一昨年は友達にあげた。それより前は忘れた。
今年は、教室の窓から捨てることにした。
窓を開けて紙袋を逆さにする。ばらばらと落ちていく色とりどりのかたまりたち。コンクリートにぶつかって崩れてくれたらいいな。
席にもどると、泣いてる女子や怒ってる女子がみんな恨めしそうに俺を見ていた。だからその目つき、目障りなんだってば。


「基山くーんっ!!」
公園のブランコは俺と夢子の待ち合わせ場所。夢子は他校に通っているから、学校の帰りや休日にしか会えない。
「ごめんね、今日は委員会があって遅れちゃった…」
「さっき来たとこだから大丈夫だよ」
「ね、今日は何の日だか分かる?」
「うーん、何の日なんだろうね?」
「もう基山くんったら惚けちゃって。バレンタインデーでしょ」
ふふ、と笑って夢子は小さな箱を取り出した。派手な装飾はされていない、ワンポイントにハートのシールが貼ってあるだけの箱だ。けれど、そのハート1つに夢子の愛がぎゅっとつまってるみたいでくすぐったくなる。
「はい、基山くん。ハッピーバレンタインデー!………んっ」
はにかみながらチョコをくれた夢子を引き寄せてキスをした。驚いているその表情がとても可愛い。後頭部を押さえて逃げられないようにして舌を絡ませた。歯列をなぞり深く深くキスをする。涙目になって小さな声を漏らす夢子にますます欲情した。上手く呼吸ができないのか苦しがる夢子を見て唇を離した。
「…き、きき基山くんっ…ここ公園……」
「公園だから、どうしたの?」
「恥ずかしいじゃない!」
「そう?」
俺を睨みつける夢子だけど顔が赤いから全然恐くない。やっぱり俺の彼女は可愛い。
「夢子、大好きだよ」





(そういえば基山くんって意外と他の女の子からチョコもらってないんだね)(だって俺は夢子からのチョコしかいらないから)






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