「ヒロトのばか!!!」
「ご、ごめん!も、物投げないでよ、いたたた…」
「もうっ…出ていってやる!!」
「え!夢子、冗談だよね!?…夢子!!夢子戻ってきてー!!」
夢子はハンドバッグを持って部屋を出ていこうとしている。それを追い掛けるが足を捻挫しているため走れない。
「待って夢子!あれは誤解だ!!誤解っ!!………行っちゃった…」
一人取り残された俺はバタンと後ろに倒れた。何てことしちゃったんだろう。誤解されるようなら、あんなことしなければ良かった。もしこのまま夢子が帰ってこなかったらどうしよう。俺は生きていけないよ!
…だけど物を投げるのはやめてほしかった。いま、右腕がすごく痛い。



「ねえ聞いてよ二人とも」
「なんだよ急に来て」
「君達の新婚ラブラブノロケ話がしたいのなら帰れ」
「違うの!深刻な問題!!」
私は幼なじみの住むアパートに来ている。名前は涼野風介と南雲晴矢。二人はヒロトと同じくサッカー選手だ。家賃を割り勘できるからという理由で同居しているらしい。
二人は私のいつになく真剣な表情に驚いているようだ。顔を見合わせている。私が真剣になるのがそんなに珍しいのか。
「まあ、いい。話を聞いてやるとするか」
「そうだな、取り敢えず入れよ」
部屋の中は、やっぱり予想通りだった。ごちゃごちゃと生活用品やら洋服やらであふれかえっている。…主に晴矢の私物で。
「じゃあ話してみろ!」
風介が出してくれたクッキーをかじりながら、私はヒロトとのケンカの理由を喋った。
「昨日の試合でヒロト達が勝ったの。その後ヒロトがインタビューされたのは知ってるでしょ?その時にファンの子が強引に割り込んできたわけ。で、マネージャーが止めるのも聞かずにヒロトに抱き着いたの!!」
「ああ〜それテレビで見た」
「だが、それはファンが悪いんじゃないのか?」
「ここからがいけないの。なんとヒロトは、抱き着いてきた女の子に笑顔でウィンクしたんだよ!!!!!!」
「……ふーん」
二人の反応が薄い。私にとっては死活問題だというのに!
「なによ二人とも。そうですよーどうせ私は短気なヤキモチ焼きだもーん」
「……それは、それほどにもヒロトが好き、ってことだな」
「なっ……!!」
核心を突くかのような風介の言葉に恥ずかしくなる。ケンカしたって私はヒロトが好きなのだ、と思った。
「ははっ顔赤くなってやんの〜」
「うるさい!言っとくけど、晴矢のチューリップの方が赤いから!!」
「な…!!」
「よく言った夢子」
風介と二人で晴矢にどや顔を見せつけた。懐かしい。小さい頃もよくふざけあって遊んだ。私と風介と晴矢と、そしてヒロトと。
「ヒロト……」
家を飛び出して来てしまったことを今更ながら後悔した。早く帰らなくちゃ。
「じゃあ私はそろそろ「夢子!!」
不意に大好きな人の声がした。
「ヒロト!なんでここに?」
「だって、行くとしたら幼なじみのところだろうと思ったんだ。それに…仲直りがしたかったから」
ヒロトの瞳が悲しそうに揺れた。
風介と晴矢は静かに部屋を出て行った。空気を読んでくれたのだ。
「さっきから話を聞いてたけど、なかなか言い出せなかった。でも夢子の笑顔がまた見たかったから…、謝る決心がついたんだ」
「私の方こそ謝りたいの!物なんか投げちゃって、顔や足にぶつかっていたらと思うと…」
「「ごめんなさい!!」」
二人同時に口が開いた。思わず吹き出して笑ってしまう。
「私達とても息がぴったり!!」
「うん、そうだね!」



その後は家に帰り、いつものように夕食を食べた。
「結局インタビューのときのファンの子って?」
「ああ、実は彼女、音無さんはマネージャーなんだ。……10年前のね」
「10年前!?」
つまり、イナズマジャパンのマネージャーだったということだ。彼女は10年振りの再会で興奮のあまり抱き着いてしまい、それに対してヒロトは挨拶としてウィンクをした。それだけのことだったのだ。
「全部私の思い込みか……。あんなにムキになっちゃって恥ずかしい」
「そう?俺は夢子がムキになるほど嫉妬してくれて嬉しいよ」
サラリとヒロトが言った言葉は私の顔をさらに赤くさせた。





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