容姿端麗で優しい先輩は私の憧れだ。風になびく髪はそれはそれは美しい。常にあるかなしかの笑みを浮かべている口元はとても妖艶である。先輩はまるでこの世のものではないかの如く麗しい人だ。
先輩は四六時中首にマフラーを巻いている。余程寒がりなのか、それとも先輩なりのお洒落なのだろうか。しかしどちらにしても先輩にはマフラーがよく似合う。
その日の帰り際私は昇降口で先輩とすれ違ったため軽く会釈をして背を向けようとした。しかし私は背を向けることができなかった。先輩に引き留められたわけではない。私の視界に入った"それ"が恐ろしくて身体が動かなかったからだ。そんな私を見て不思議に思ったのか先輩は近付いてくる。どうしたの、と声を掛ける先輩。いつもなら優しく感じるその声は今の私にとっては恐怖の対象でしかない。やめてください先輩、だなんて先輩の親切を無視するような発言は言えるはずがなく私はただ黙り込んだままになる。ああしかし早く先輩に"それ"について聞かなくてはならない。聞かなくてはならない気がする。相談事なら聞くから言ってごらん、とまた声を掛けてくれる先輩。それならば今から私がする質問に答えてください。「先輩は首が無いというのにどうやって声を出しているのですか」




先輩の首



「何を言ってるんだい?僕も君と同じ人間なんだから首がついていないはずないだろう?」
しかし私からは見える。マフラーの隙間から見え隠れするそこに首はないのだ。
「それじゃあそのマフラーを取ってみてください」
「………」
先輩は堪忍した様子でマフラーに手をかけた。私は恐怖と好奇心を胸に先輩の首の辺りを凝視した。するりするりと解かれていくマフラーと視界の隅で揺れる赤色の糸。しかし私は糸にはさほど注意しなかった。そして、あと少しでマフラーの中が全て見えるというときに先輩が言った。
「約束しよう。これから一切声を出してはいけないよ」
返事の代わりに頷いて下を向いた途端、先程の糸が急に動いて目まぐるしく私の首に巻き付いた。徐々に呼吸困難で苦しくなってくる私だけど、先輩と約束したことを思い出して黙っていた。しかし、どうしてもどうしてもマフラーの中を見たくなってしまった私は無理矢理顔を上げた。顔を上げた私が捉えたのは何もない空間だった。それが先輩の身体と頭の間の空間だと分かった瞬間に糸がきつく締まり私はきゅうと変な音を立てて死んだ。やっぱり先輩の首は無かったんだなあと思った。



死んだはずの私は何故か意識を取り戻していた。先輩に首を締められたはずだと首に手をやるとそこには何もなかった。どうやら私は先輩と同じく首が無い人間になれたらしい。新しいマフラーでも買ってこようと思う。



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