広い広い図書室には休み時間だというのに図書委員である俺一人しかいない。なぜなら今日はとても良い天気で生徒は皆外に出ていているからだ。……とはいってもスポーツが盛んなこの学校の生徒は普段からあまり図書室に足を運ばない。ならば何故こんなにも図書室が広いのかというと、例えば俺のように読書もスポーツも好きな物好きがいるからだと思う。
読んでいた本が丁度読み終わったところでふともう一人の図書委員のことを思い出した。今日は当番だとあれほど念を押して言ったのに来ないとはどういうことだ。まさかと思い校庭に接する窓のカーテンをめくって外を覗くと、やはり彼はサッカーをしていた。図書委員になってから彼が仕事をこなしたのは一回だけ。いくら人気のない図書室でも数少ない常連はいるし新しい本が入ったりするので仕事は沢山ある。自分一人だと大変なのだ。今度こそ来てもらおうと決心した俺はその日の仕事に取り掛かった。



「あの、こんにちは」
放課後貸出カウンターで本を読んでいた俺に誰かが話しかける。図書室に人が来るなど珍しい、と思い顔をあげるとその人は俺のよく知る人だった。
「ああ、夢野さん久しぶり。最近来てなかったけどどうしたんだ?」
「部活で大会があって忙しくて図書室に行けなかったんです」
図書室の常連その1夢野夢子。陸上部の一年生だ。以前俺も陸上部だったからその時に知り合った。幅広いジャンルの本を読んでいるが今は源氏物語などの古典に興味があるらしい。カウンターに置かれたのは沢山の古典についての本だった。軽く雑談をしながら貸出手続きをしていく。その途中彼女は何度も何度も視線をカウンター奥の部屋に向けていた。…その原因は何となく分かっている。
「さっきから気になっているようだけど、部屋には誰もいないからな」
「き、気になってません!」
顔を赤くして首を振るから夢野さんは分かりやすい。彼女はもう一人の図書委員、基山ヒロトを探しているのだろう。何ヶ月か前のある日、ヒロトが珍しく図書室にいたとき夢野さんがいつもの如くやって来た。すると彼女はヒロトを見た途端に顔を赤くした。所謂一目惚れをしてしまったようなのだ。その一目惚れが今でも続いていると思うと悔しくてたまらない。ヒロトは女癖が悪い、ということにまだ気付いていないのだろう。
「じゃあ…返却日は二週間後だから」
「はい、ありがとうございました!」
「……二週間後は絶対ヒロトにいてもらうから」
「え?」
「い、いや、何でもない」
「そう、ですか…」
そう言うと彼女は小走りで図書室を出て行った。本を抱えて去ってゆく姿を見ていると後悔の念がじわじわと沸いてくる。我ながら変なことを言ってしまったものだ。そうは思っても結局は後の祭りで、二週間後にはヒロトと彼女が並んで歩いているのだろうと思うと酷く羨ましくなった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -