廊下に誰もいないことを確認した私は合宿所を抜け出して海へと向かった。砂浜に足を掬われながらも走ってゆくといつもの場所に風丸くんがいた。私の足音に気付いた彼は手を振ると笑顔を見せた。
「待たせちゃってごめん」
「いや、大丈夫だよ。俺もさっき来たところなんだ」
昼間は練習が忙しく二人だけで話せる機会は滅多にない。だから私達はこうして夜中に二人きりになる。しかし夜中に会う理由というのはそれだけではない。
「今日も誰にも見られなかったか?」
「うん、平気だったよ。だけど…やっぱり罪悪感があるかもしれない」
「そんなこと言ってもお前はあいつにもっと酷いことされてるんだろ?」
「………」
実を言うと私は基山ヒロトと恋人関係にある。だけどライオコット島に来てからのヒロトは急に私に暴力を振るうようになった。ストレスからなら仕方ない、と我慢していた私だったがそれが続くと心も身体もボロボロになってしまった。そして、そんな私に気付いて心配してくれたのが風丸くんだった。そこから風丸くんと私の関係は続き今に至る。
「ほら、座って」
肩を抱いて私に座るよう促す風丸くん。私は素直に頷いて隣に座った。
「辛いとき、泣きそうなときっていうのは俺にも沢山ある。でもそんなとき、俺がいつもしていることがあるんだ」
「何を、しているの?」
下を向いて人差し指で砂をいじっていた私は顔を上げ風丸くんを見る。しかし予想外の近さに恥ずかしくなりまた顔を逸らした。
「どうした、顔を逸らしたって顔が赤いのはバレてるぞ?」
「そんなことない!!」
勢いよく否定して首を振った。全く、同じ年齢だというのに風丸くんはいつも上手だ。
「……俺がいつもしていることは、空を見上げて深呼吸をすることなんだ」
「深呼吸?」
「ああ、簡単だろ?」
「うん!――うわっ!!」
突然腕を引っ張られて砂浜に仰向けになる。風丸くんを見ると彼も隣で仰向けになっていた。訳が分からず混乱する私に彼は微笑みかけ、天に向かって指を差した。
「見てごらん。あれがデネブ、アルタイル、そしてベガ。3つ繋げて夏の大三角だ」
「……!!すごく綺麗な星空…」
ライオコット島に来てからは辛いことばかりで気を抜ける暇など殆どなかった。だからこうして夜空を見上げるのは初めてかもしれない。どこもかしこも星でうめつくされている。私は星空を見上げながら大きく深呼吸をした。上手くは言い表せないけれど心の中が満たされていく感じ。とても気持ちが良かった。
「夢子、」
「ん?」
「暫くこうしていようか」
「うん、」
真夜中の逢瀬は二人だけの秘密。幸せをかみしめてもう一度深呼吸をした。








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