「夢子せんぱーいっ!!」
教室の窓から顔を出していた私は、その声の聞こえたグラウンドの方を見た。近視のためよく見えないけれど、手をぶんぶんと振って私を見上げている青い髪の彼はきっと音無くんだ。大きく手招きをしているので駆け足で教室を出た。
音無くんは私の後輩だ。とはいっても同じ部活というわけではない。雷門中に入学したばかりで学校内を迷子になっていた彼を案内してあげたのが私達の出会いの始まりだった。
グラウンドで私を待っていた彼はなぜかサッカー部のユニフォーム姿だった。この前までは新聞部だったのに、急に体育会系な部活に入るだなんてどうしたのだろう。
「音無くん、もしかしてサッカー部に入ったの?」
早速質問すると、彼は少し顔を赤くして真新しいユニフォームを握りしめた。
「はい!実は…」
彼はサッカー部に入った理由を話しはじめた。それは、FFの帝国戦で、長い間連絡を取ってくれなかった兄との誤解が解け、その兄が雷門中に転校してきてサッカー部に入ったからであった。
「お兄ちゃんは昔と変わらず優しかった…。お兄ちゃんは、僕のことを忘れていたわけではなかったんです…!!」
涙目になりながらもサッカー部に入ることになったいきさつを話してくれた音無くんが急に愛おしく思えてきて、気付けば抱きしめていた。一瞬だけ体が強張ったけれど、それはだんだん緩んで彼からも抱きしめ返してくれた。年下の彼氏ってこんな感じなのかなあとか、心臓の音ってこんなに煩かったかなあとか、いろんなことが思い浮かぶ。
「――先輩、少しだけ僕の質問に答えてもらえますか?」
私は静かに頷く。
「いま、すごく心臓の音が煩いんです。これは僕の心臓の音だけですか?…それとも、先輩の心臓の音もですか?」
私の心臓の音がすごく煩いことくらい分かっている。でも、それを答えるのは恥ずかしい。唐突な質問内容に動揺しながらも、口を開く。
「たぶんそれは…、……私には分からない…」
「あれ?先輩は僕の質問に答えてくれないんですか?」
「うっ………」
いつから音無くんはこんなに意地悪な子になってしまったのか。少なくとも数分前までは可愛い後輩だったのに。
「こ、後者だと思う」
「ということはつまり?」
「私は…音無くんが好きです」
この気持ちに気付いてしまったのは音無くんのせい。
「うん、その言葉が聞きたかったんだ!……夢子先輩、僕も先輩のことが大好きです」
さらに強く抱きしめられた私は恥ずかしすぎてそれからのことをよく覚えていない。けれど一つだけ覚えているのは、ファーストキスがとても優しかったということ。



その幸福、禁忌にて






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