二学期の始まりでもなく三学期の始まりでもない中途半端な時期に転校生がやってきた。さらさらと揺れる髪に切れ長の目、それにスタイル抜群な美少女転校生だ。
基山です。よろしくお願いします。
ありきたりな挨拶だったけれど基山さんが言うと素敵な言葉に聞こえた。
あんなに美人だし優しそうな基山さんはきっとクラスの中心的存在になる。だから私には到底手が届かない人になるのだろう。窓からぼんやりと空を眺めながら物思いに耽っていると隣から私に話し掛ける声が聞こえた。
「よろしくね、夢野さん」美少女転校生は私の隣の席に座った。

一ヶ月もしないうちに基山さんは私の予想通りクラスの中心的存在となった。休み時間の度に数人の女子が机の周りに集まる。学業も運動も優秀なので皆の憧れの対象。しかも優しく礼儀正しいので先生方にも好かれている。そんな完璧な少女が私の隣に座って共に授業を受けている。そう思うと視線は自然と黒板から基山さんへと移ってしまう。姿勢良く板書をしている基山さんは素敵だ。どのクラスメイトよりも大人びていていて同い年の男子よりも格好良かった。
私の視線にに気付いていなければいいのだけれど。と思いながらその日最後の授業を終えた私に基山さんが手紙を投げてよこした。ルーズリーフの切れ端に綺麗な字で書かれた手紙を読んで驚き隣を見ると基山さんは片目をつぶってウィンクする。一緒に帰りたいから裏門で待っててもらっていい?…だなんて。どうしたのだろう。

裏門で待っていると基山さんが走りながらこちらへ来た。そのまま私達は歩き出す。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「ううん、大丈夫です」
「あれ?別に私は先輩じゃないから敬語使わなくてもいいのに」
「分かった。ありがとう」
聞くと基山さんの家は私と同じ方向らしい。しかし同じ通学路を使って通っているというのに登下校中一度も会ったことがない。もしかして車で通っている、とか。冗談で考えてみたけれど基山さんは良家のお嬢様な雰囲気がするので本当に車で通学しているかもしれない。
「もう、また夢野さんたらぼんやりしてる!授業中もぼんやりしながら外見てたりするけど、今は私とお喋りしようよ?」
「あ、ごめんね基山さん。ぼんやりしちゃうのは、何て言うか、癖みたいなものかな」
「そうなんだ…でもぼんやりしてて車に轢かれたら大変だよ?」
「あはは、そこまではないよ」気付けば高嶺の花だった基山さんと普通に話せていた。それに嬉しくなってますます会話が進んでいた頃に基山さんが急に立ち止まった。
「ここ、私の家なんだ」
ここ、と言われて前方を見ると日本式の大きな屋敷があった。いつも、こんな家に住めたらいいなと憧れていた屋敷だった。
「す、すごいよ基山さん!私前からこの屋敷に憧れていたの」
「うん、それは良かった。実は夢野さんを家に招待したくって」
「本当!?ありがとう」
屋敷に入り基山さんの部屋に案内された。しかしその部屋は予想外にボーイッシュにコーディネイトされていた。ピンク色とかパステルカラーはなく青色の小物が多いしサッカーボールまでおいてある。ちょっと、いやかなり意外だった。
「なんだか男の子の部屋みたいだね。…でもボーイッシュで素敵だと思うよ!!」
「ありがとう。でも無理に褒めなくたっていいのに」
「いや、無理にだなんて…」
驚いたのは確かだけれど素敵な部屋だと思う。それにこうしてみると基山さんにぴったりだ。
「まあ、いいわ。私これから夢野さんに言うつもりだったし」
「何を…?」
しかし基山さんは返事をせずにブレザーのジャケットを脱いだ。そしてリボンを外しワイシャツのボタンに手をかける。呆気に取られて何も言えない私を目の前に基山さんはボタンを一つ二つと外していった。まさかここで着替えるつもりなのだろうか。
「待って基山さん!着替えるのは私が帰ってからにして!!」
慌てて基山さんに飛び付くとそのまま押し倒す形になってしまった。乱れた髪と外しかけたボタンがいやらしい。あっという間に自分の顔に熱が集まるのが分かった。
「ごごごめんなさい!今すぐどくから」
「いいよどかなくて。…ふふっそんなに赤くなっちゃって夢子ちゃん可愛い」
「夢子ちゃん!?」
名前で呼ばれた上に何となく雰囲気が変わった気がする。でも多分気のせいだ。男子みたいになっただなんて気のせいだ。基山さんは片手で私の腰を押さえてもう片方の手でボタンを外していく。
「夢子ちゃん授業中ずっとこっち見てたでしょ?だから気になっちゃってこっちも夢子ちゃんのこと見てたんだ。そしたら意外と頑張り屋さんだったんだね。一生懸命な子って可愛くて好きだよ」
気付かれていたことと好きと言われたことに恥ずかしくなり目を逸らす。
「だけどこのままじゃ告白なんてできないと思って。…君だけにとっておきの秘密を教えてあげる」
とっておきの秘密という言葉が気になって基山さんを見ると彼女はワイシャツのボタンを全て外し下着を脱いで胸をさらけ出していた。「え……?」そしてその胸は本来あるはずのふくらみがなかった。
「…俺、本当はね、男なんだ。家の跡取りとしての事情があって女として育てられてたんだよ」
「基山…くんってこと!?」
「ああそうだよ」
女子だと思っていた人が男子だった。本来ならばかなり衝撃的なことだけれど私はそれ程驚かなかった。なぜなら普段から男子よりも格好良く感じていたから。
「あれ?あんまり驚いてないね」
「だって…基山"さん"のままでもどの男子よりも格好良かったから」
「じゃあ俺のことが好きだってこと?」
「好き!?……好きってどういうことかよく分からないけれど、多分、そう…なのかな…?」
曖昧だったけれど彼は肯定の意味だととったのか、返事を聞いた途端に基山くんは私を抱き寄せた。強く強く、だけど最高に優しく、私を抱きしめた。男子だと聞いた瞬間から心拍数が早くなっていたというのに、今はそれを越えたスピードで心臓の音が聞こえる。
「今、心臓の音がすごいでしょ?それが"好き"ってことだよ」






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