基山さんの笑顔を見たあの日から、彼女の口元を見る癖がついてしまった。気付けばいつも私は、彼女の唇を見ていた。



「今日は基山さんが休みでした。誰か配布物を届けてあげてくれない?」
終礼で担任が皆に言うが、誰も名乗り出ない。顔を見合わせて、首を横に振るだけなのだ。しかし、かく言う私もその中の一人だった。

「もうっ…仕方ないわね。先生が届けてきます。じゃあ今日はこれで終わり。日直さん、号令してちょうだい」

挨拶が終わるとクラスメイトは一目散に部活に向かう。しかし数人はゆっくりと帰り仕度をしている。春奈ちゃんは女子サッカー部マネージャーだから前者である。そして私は後者だった。

「先生、私…基山さんに配布物届けてきます」
どうせ暇なんだから、そんな理由で先生に声を掛けた。
「あら、夢野さんありがとう!北校舎7階の81号室だからよろしくね」



思っていたより多い配布物を抱えて北校舎へ向かう。心なしか私の部屋がある南校舎より豪華な気がする。シャンデリアに赤い絨毯にお洒落なアンティークまで……。どうやら「心なしか」ではなく「確実に」豪華であるようだ。

エレベーターで7階まで上がり81号室の扉の前に立つ。
私なんかが来てもよかったのかな、なんて後ろ向きな考えが頭を過ぎる。けど、ここまで来たからにはやるしかない!
汗ばむ手をぐっと握り締めた。


とん とん


「基山さん、いますか…?」




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