「――では、転校生を紹介します」
学長の言葉に私達生徒はざわついた。
多くの生徒はその立場ゆえ、生まれる前から閃影女子学園に入学することが決まっている。だから途中からの転入なんてものは有り得ない。

戸惑う生徒を余所に、一人の少女が壇上に上がった。
しかし後ろの席なのでよく見えない。ポケットから眼鏡を取り出して耳にかけると、やっとはっきり姿を認識することができた。
鮮血のように赤い髪、雪よりも白い肌、透き通った緑色の目。細い手足、堂々とした、けれど気品のある立ち姿。まるで完璧なる美しさを持つビスクドールだ。
「すっごく美人さんだね…」
私と同じく眼鏡をかけた春奈ちゃんが、うっとりとした顔で呟いた。
壇上の美人さんはぺこりとお辞儀をして、口を開いた。
「初めまして基山といいます。よろしくお願いします」
意外にも低かったその声を聞いた瞬間、寒気がした。突然に、怖くなった。
思い出したくない過去が脳裏に蘇る。
「あ…ああ…い、いや……」
心が細い糸で締め付けられてるみたいに痛い。手には汗が滲んでいるのになぜか寒気がする。
「……!!夢子ちゃん、大丈夫だよ、ここには女の子しかいないから、大丈夫だから、深呼吸、して?」
「ん、うん…、……」
震える指先を握りしめて大きく深呼吸をした。春奈ちゃんの腕が優しく私を抱きしめる。
「いつもごめんね、春奈ちゃん」



遡ること7年前、私が小学2年生だった頃のことだ。友達と遊んでいた私は、みんなとはぐれてしまった。背の高い草が生い茂る空き地に独り取り残された私。とても心細くて、その場に座り込んだ。空はどんどん暗くなっていくし、お腹は空いてくる。わたし、死ぬんだな。って思った。そんな時、突然、誰かに手を引っ張られた。訳の分からぬまま中学生と思われる何人かの男子の輪の中に連れていかれた。そして私は、暴行を受けた。叩かれたり、蹴られたり、いやらしく触られたり。幼かった私は泣き叫ぶことしかできなかったが、誰も来てくれなかった。数時間後、ひとり横たわる私を幼なじみが見つけてくれた。だから無事に助かった。
けれども私はその日以来、男性恐怖症になってしまった。あの時のような中学生の男子が恐怖対象なのだ。
これは、この学校に入学した理由のひとつである。

しかし、なぜ私は転校生の彼女に恐怖を感じたのだろうか。始業式が終わってもなお、それだけが気掛かりだった。




ビスクドールと通りゃんせ



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