「それでは解答用紙を集めてください」
…期末試験が終わった。
試験監督の先生が教室を出た途端にクラスは大盛り上がり。
「ベルリンのおばさまに会いに行くの」「今年もモスクワよ」「恒例の夜会が忙しくて…」試験なんて無かったかのように夏休みの話題が飛び交う。かくいう私も春奈ちゃんと夏休みについて話していた。そこに、斜め前から声がかかる。
「夢野さん、音無さん、今年は私の別荘にいらっしゃらない?」
「本当?嬉しい!ね、夢子ちゃんも行くでしょ?」
「ごめんね…。私、今年もここに残らなくちゃいけなくて」
「そう……、残念だわ」
夏未さんの別荘は海の近くにあるらしい。去年行った秋ちゃんが写真を見せてくれたのを覚えているのだけれど、日本だとは思えないほど美しかった。いつか行ってみたい…。
「今年も残るの?お泊りしたかったよ〜」
「外出禁止、っていう規則がなければいいのにね」
私は頬を膨らませて学長室の方角を軽くにらんだ。
「お家は?」
「折角なんだから残りなさいって言われちゃった」
「ふふっ…、それもそうかも」
「ど、どうして?」
「なんたって夢子ちゃんは……まだこの学校を半分も知らないんだよ?」
にやりと笑った春奈ちゃんはこっそりとノートパソコンを取り出した。
「これ、私たちのいる場所ね」
恐らく学園の地図だろう。赤く点滅している点がある。
それから次々と紹介されたのは、授業で使っている教室と私たちの寮。
「この他にも、私たちが入れる場所ってあるの?」
「まずは、植物園。夢子ちゃんは入ったことないでしょ?とっても沢山の植物があって楽しいよ。
それから図書館ね。普段使っている、あの1階にあるシンプルな方じゃなくて……こっち!」
「時計塔?」
「実はこれ、時計が付いている塔ってだけで本当は図書館なの。お堅くて分厚いものから最新刊の漫画まで、何でも揃っちゃう!」
「漫画まで!?」
「そう!だからいつもは閉鎖してるんだって」
まだまだ知らないことだらけで心が躍る。夏休みがこんなに楽しみになるだなんて思いもしなかった。
「ね、この地図…」
「そんな夢子ちゃんにこのノートパソコンをお貸しします」
「えっ」
「私は何台か家にあるから大丈夫。夏休み中は使っていていいよ?」
「あ、ありがとう!!!」
「チャットとかできるから、夏休み中も沢山やろうね!…あ、もちろん学校には内緒で」
「うんっ」




荷物をまとめた春奈ちゃんの家族が迎えにくると、私は一気に寂しくなってしまった。このまま部屋に戻ってもひとりだ。
ロビーに行けば誰かしら知り合いがいるかもしれない。
そんな希望を胸に扉を開けると、みな同じ気持ちなのか居残り組で賑わっていた。一瞬で知り合いを見つけるのは無理そうな混み具合である。

しかし私は一瞬で見つけてしまった。それは特徴的な髪の色をした、基山くんだった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -