「基山…くん、突然なんだけど、質問してもいいかな」
「いいよ」
次の日、私達はまた同じ場所で座っていた。基山くんは水色のワンピースに白いカーディガンという初夏らしい服装だ。淡い水色は彼の印象をより優しいものへと変えたから、心なしか昨日よりも話しやすかった。もしかしたら彼なりの気遣いなのかもしれない。
「どうして…、こ、この学園に、転校してきたの…?」
その質問を予想していたかのように彼はすんなりと口を開いた。吉良財閥だということや義兄の存在がいること、そして自分はその身代わりだったということ……。彼は庶民である私にはあまり理解し難い環境で生きてきたのだという。
「そうして俺の居場所はあの家には無くなって、父さんがこの閃影学園に入れてくれたんだ。何しろ、ここの機密情報管理能力はとっても高いからね。……そうは言っても、君を傷付けてしまったことは許されない。本当に、ごめん」
基山くんという男の子がこの学園にいること。それを知った時には驚き、恐怖さえ感じた。けれど今の私は彼の存在を受け入れていた。私がいくら拒絶をしても彼の居場所を奪う権利はない。それに、彼が真実を話してくれたことがとても嬉しかったのだ。
「もう、…大丈夫だよ。基山くんのことは、まだ、…ちょっと怖いの。でも、許していないわけでは…ないから…」
私は真っ正面から基山くんの目を見つめた。男の子だと意識してこんな風に見つめるのは初めてのことだった。揺れる深い緑色の瞳に瞼を縁取る長い睫毛、言葉を紡ぐ赤い唇。まるで女の子のそれと同じなのに、
「ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しいよ」男の子なのだ。


「も、もう一つ。…聞いてもいい?」
「どうぞ?」
「……私、基山くんの、…下の名前が知りたい」
彼が普段使っているあの名前は恐らく偽名なのだろうと思う。だから、男の子としての本物の名前が知りたかった。
「俺の名前……」
「うん、で、できたらでいいんだけれど…」
「もちろん、いいよ。俺の名前は、」
唇がゆっくりと開いた。なぜだろう、基山くんの瞳が悲しそうに揺れたから、この質問をしては いけなかったのかも しれない。


「ヒロト……、だよ」







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