久しぶりに感じた朝の寒気で私は目を覚ました。
昨日まではあんなに暖かな陽気だったのに、今日はどうしたのだろう…。
微かな音が聞こえる窓の外を見ると、雨が降っていた。どうやら梅雨の季節がやってきたらしい。


朝食のため食堂へ行くといつもより人影が少なかった。バターロールとミルクをトレーに取り、知り合いはいないかと辺りを見まわす。目に入ったのは髪の色素が薄く華奢な彼女、冬花さんだった。
「冬花さんおはよう!」
「あ、夢子さんおはよう」
ふわりと髪を揺らして振り返った冬花さんからはフレグランスの香りがした。同い年とは思えない上品さを兼ね備えた彼女は、正真正銘の令嬢なんだなあと思う。
「今日は何を食べるの?」
「うーん、チーズガレットにしようかな」
「じゃあ席で待ってるね!」
目星をつけた席に向かい足取り軽く歩いていると、誰かの椅子に足を引っ掛けてしまった。
「わっ、あ!!」
バランスを崩し、トレーが傾いた。このままだと食器が落ちてしまう…!!私は本能的に目をつぶった。
しかし、食器の割れる音はいつになっても聞こえない。後ろから、誰かが私の身体を支えてくれたのだ。
「あ、りがとう…ございます……」
ほっと一息をついた。肩の力が抜ける。
私を助けてくれたその人は、ゆっくりと手を離した。見覚えのある真っ白で骨張った腕に、どうしてかまた肩に力が入る。私は振り向いて、恐る恐る視線を上に上げた。

「あ、………」
基山さんだった。
彼女は緩やかに微笑んで私を見下ろしていた。
「夢野さん、」
「っ……」
「話したいことがあるから」
真っ直ぐに私を見るその目を縁取るのは長い睫毛で、スカートの端を掴む指先は細く、だけど基山さんは、男の子。
「…だから、今日会ってくれないかな」
「…………」
私は顔を背けた。そのまま、意味もなく、床のタイルの剥がれているところを見つめた。すると足音が小さくなっていき、基山さんはいなくなっていた。
「どうしたの夢子さん」
「え!?」
いつの間にか冬花さんが隣に来ていた。
「何だかぼんやりしていたみたいだけど」
「ううん、何でもないよっ!」
「そう……。じゃあ、食べよう?」
「うん!」



基山さんとはあの日から今日まで口を利いていなかった。というか、一方的に私が避けていた。だって仕方ない。あんなことを言われたら誰だって。誰だって避けてしまうのは当然だ。きっと私は悪くない、悪くないはずだから……。



どうしてそんなに悲しい事を言うの?




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -