「はあっ…はあっ……」
夢中で走り自室に駆け込んだ。急いで二重の鍵とチェーンロックをかけ、ソファに倒れ込む。
信じられない……。ここは女子校なのに……。
あれは私の見た幻だったに違いない。だってこの閃影学園に限ってあんなことが許されるわけないのだから。
――でも、もしも私が見たものが本当だったなら……。基山さんと仲良くなりたいと思っていたのに、私は、どうすればいいのだろう。明日からどんな顔をして会えばいいのだろう。
頭の中に、基山さんの優しげな笑顔がいくつも浮かんでくる。しかしそれらは次第にぼんやりしてきてしまうのだ。性別を偽って…私たちを騙してきたのならば…あの笑顔も…嘘なのかな……。
知らず知らずのうちに涙が溢れて止まらなかった。
「なんでっ…私は泣いてるのよ……!ばか…私のばか!私が泣く必要なんて、あるわけないのに……」




涙が乾き始めたその時、ノックの音が聞こえた。びくりとして目元を押さえていたハンカチを離す。誰だろう。
「夢子ちゃ〜んっ!」
春奈ちゃんの声がした。そういえば、と時計を見ると9時30分。一緒に朝食を食べる約束をしていたのだ。焦って玄関に走りドアを開けると、不機嫌そうな春奈ちゃんがいた。そのまま玄関に入ってもらう。
「もうっ、8時30分に待ち合わせしたの忘れ……夢子ちゃん、どうしたの?」
春奈ちゃんの表情が変わり私の顔を覗き込んだ。心配してくれているのかな、嬉しい。
しかし、目が腫れてるよ、と手を伸ばした春奈ちゃんのそれを私は叩いてしまった。
「え……?」
「あ、…あ、あれ……勝手に、手が…。ごめんなさい春奈ちゃんっ…わざと叩いてしまったわけじゃないの、ごめんなさい……。ごめっ、な、さい…」
「夢子ちゃん…」
また涙が出てしまった。
――私はさっきから変なことをしてばかり。泣いてしまったり、大好きな春奈ちゃんを拒絶してしまったり…。下を向いて唇を噛み締めた。

その時、柔らかく温かいものが私を包み込んだ。顔を上げると、それは春奈ちゃん。
「思いっ切り泣いていいよ」
「……ありがとう…」
優しい春奈ちゃんの言葉に目頭が熱くなった。私も抱きしめ返して、大声で泣いた。
やっぱり春奈ちゃんは春奈ちゃんだった。
「落ち着いてきたら、何があったか教えてね。相談に乗るから」



それから、私は今まであったことを全て話した。案の定、春奈ちゃんはとても驚いた。
「そんな…!!本当に基山さんが?」
「……うん、本当だよ」
他の女の子も、基山さんみたいに男の子だったら、と思うと明日からちゃんとやっていけるか心配だった。
「夢子ちゃん!」
「?」
春奈ちゃんは突然私の手を掴み引っ張った。ぐいっと引き寄せられたその手が触ったのは柔らかく弾力のある…「は、春奈ちゃ、ん…!!どうしたのよ…!?」胸だった。
何をされているか分かった瞬間にとてつもなく恥ずかしくなる。
「私にはちゃんとおっぱいがあるの。だから私は女の子。安心して」
にこりと強気な笑みを浮かべた春奈ちゃんの行動は、確かに突拍子もないことだったけれど、少し気持ちが楽になった。私は春奈ちゃんでさえ疑って、人間不信になりそうだったのだ。
「ありがとう、」
「あ〜あ、夢子ちゃんたら泣き虫なんだから…」
「え…?」
「また泣いてるよ?」
頬を触ると、気付かないうちに涙が伝っていた。
「ほ、本当だ!」
「何度でも抱きしめてあげる」
再びぎゅうっとされた。思わず微笑んでしまう。私はこの温かさがとても好きなのだ。



涙の重さだって背負うよ



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