夢野さんは、なぜ俺に優しいのか。そればかり気になっていた。
俺は君を騙しているんだ。
もし本当の性別を知ったら、何を言うのだろう。…どんなことを言われても受け止める覚悟はしている。
小さく息を吐き、プラネタリウムプロジェクタの明かりを点けた。パッと頭の上に銀河が生まれる。宇宙人になって、そうしたらあの星のどれかを乗っ取ってやるんだ。手のひらをかざして俺の真上にある水色の星を掴むふり。ああ、そういえばあれは地球だったな。地球でも侵略してやろうか。
あまりにも子供っぽい空想に俺はくすくすと笑って目を閉じた。


けたたましいベルが鳴り響いた。朝に弱い俺にとっては丁度良い音量の目覚まし時計だ。いつもならもうちょっと布団の中にいるが、今日は違う。夢野さんよりも早く起きて女の格好に着替えなければいけない。クローゼットの中にはずらりと服が並んでいる。適当にワンピースを選んで洗面所に持っていった。
顔を洗って歯を磨き、パジャマを脱いだ。裸の上半身が鏡に映る。
「……痩せたかな」
肋骨がやけにくっきりとしていた。体重計に乗ると案の定体重が減っていた。
食事はしっかりと食べている。運動は以前に比べあまりしていないから、脂肪が増えるはず…。とすると、精神的なストレスによるものか。

「きゃっ……」




俺は口を開いていない。腹話術などできるわけがない。ならば、今の声は……夢野さん!?
迂闊だった!洗面所に鍵をかけるのを忘れていただなんて!しかし、オレは彼女に背を向けている。振り向かなければいいだけのことだ。
「ごめんなさい、わたし着替えているの」
「基山さん」
「うん」
「お、女の子の背中は…そんなに角張っていないよ、ね……?」
「…そうね」
後ろ姿だけで感づかれてしまった。急いでワンピースを着れば何とかごまかせるかもしれない。
…でも、俺は嘘偽りなく夢野さんと親しくなりたい。拒絶されてしまっても構わないから、本当の自分を見てほしい。なぜかそう思ってしまった。
「わたし、」
ゆっくりと振り返る。







「男の子なんだ」

「っ…!」
「隠していてごめん」
「やめて!!」
夢野さんが金切り声を出した。表情を歪ませ手足を震わせている。明らかに様子がおかしい。
「どうしたの…?」
近寄って手を伸ばせば、夢野さんの目にじわりと涙が浮かんでくる。
「    !!」
何かを言おうとしているが、声になっていない。

そんな夢野さんの姿に俺は戸惑い、どうすることも出来ず突っ立っていた。
そのうち彼女はハッとしたように洗面所から走り出て、部屋を出ていった。



さよなら わたし



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