「……」
基山さんの部屋のドアをノックしたが、返事がない。
「き、基山さーん?」
声を張り上げるとドアが開いて基山さんが顔を出した。
「あれ、夢野さん、どうしたの?」
「今日配られたプリントを届けにきたよ」
「あ、ありが……」
ふらりと基山さんがバランスを崩す。
「わ!大丈夫?風邪?」
「うん、ちょっと熱っぽいかな」
「じゃあ寝てなきゃダメじゃない!」
「だって夢野さんがノックしたから…」
「ご、ごめん。肩貸すから、ベッドまで行こう?」
「…うん」
にこりと赤い唇が孤を描く。やっぱり綺麗だな、と思いながら基山さんをベッドに寝かせた。
「おしぼり温くなってるから変えたいんだけど、洗面所使ってもいいかな」
「うん。その廊下を右に曲がってすぐの扉だから」
まさか基山さんが風邪だなんて思ってもいなかった。来てよかったかもしれない。
それにしても、この部屋がこんなに私の部屋と違うだなんて。まず廊下がこんなに長くない。私の部屋なんか大また五歩の長さなのに、こちらはといえば大また十三歩つまり二倍近い長さである。
さて洗面所に着くと可愛らしい石鹸や入浴剤の数々がずらりとは並んでいた。仄かな匂いが漂っていて女の子心をそそる。
そんな素敵な洗面所でおしぼりを絞りベッドの元に戻ると、基山さんは目を閉じていた。きっと寝ているのだろう。と思い私は赤色のさらさらした前髪を2つに分けておしぼりをのせた。
「ありがとう」
「えっ」
急に話しかけられ反射的に手を離してしまう。
「こんなに優しくしてくれるの、夢野さんだけだよ」
「み、みんな本当は基山さんと仲良くなりたいと思ってるよ」
「ふふ、そう言ってくれるところが優しいんだよね」
基山さんは何度か瞬きを繰り返す。その度に睫毛がふさふさと揺れる。
「…わたし、父さんと兄さんと姉さんと4人で暮らしているの。みんな優しくしてくれる。でもね、本当に優しいのは姉さんだけなんだ。もちろん父さんのことも好きだよ。でも父さんは兄さんの方が好きで、だからわたしは兄さんのことがあまり好きじゃない。兄さんはあんなに優しいはずなのに、わたしは兄さんの優しい言葉が信じられない」
それはまるで、自分が家族の一員じゃなく居候です、とでも言うような喋り方だった。



さいしょからひとりぼっち



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