誘拐

私は騙されて誘拐された……そこまでは理解できる。
大吾さんの名前が出たから車に乗ったら、いきなり目と腕を縛られて、口も塞がれて身動き取れなくなった。
「騒げば殺すよ」
脅しの言葉を聞いたら、怖くて黙って従った。
どこに向かっているか分からなかったが、車が止まった。ドアが開き、グッと誰かに引っ張られて外に出ると、どっかに歩き出す。
階段を上がると、ドンと背中を押されたから転ぶと、足音は引き返したのか行ってしまった。
「(だ、大吾さん……た、助けて!)」
これかどうなるのか、震えが止まらなかった。



バタバタと構成員は、会長室に向かう。
部屋の前に着くと、急いでノックをすると「入れ」の声で中に入る。
「失礼します!か、会長!」
慌てた声に、眉間にシワを寄せて聞いてみた。
「何かあったか?」
急いで来たのか息が乱れていたが、すぐに整え話し出す。
「な、名無しさんが誘拐されました!」
それを聞いた大吾は、ガタッと立ち上がると、机の書類が落ちるが、気にもせず。
「何!」
「嘘かと思いましたが、最後に知らねぇよと言われて電話を切られたので……」
「相手の要求は何か言ってないのか?」
「今の所は何も言ってませんでした」
「今度電話があったら俺に繋げろ!」
「は、はい!」
報告終わると、頭を下げて、バタバタと部屋を出ていくと、落ちてる書類を拾うが、クシャと握り締める。
「(名無しに何かあったら許せねぇ!)」
不動明王のように怒りの炎が収まることはなかった。


誘拐されて何時間たったのだろうか。
体育座りで丸くなりながら考えていたが、音が少しでも鳴ると、ビグリと反応して震える。
「(怖い……大吾さん……大吾さん……大吾さん)」
頭の中で、大好きな人の名前を呼んでも届かないと分かると、目から大粒の涙が止まらなかった。


「珍しいな。会長様がこんな所に一人で来るとは」
賽の河原を統治する凄腕の情報屋゛サイの花屋゛。手下として大量のホームレスと神室町中の一万台の監視カメラ等を使って情報収集して、もちろん大吾の彼女を知っているだろう。
「名無しを探してください。いくらでも払います」
それを聞いた花屋は、鼻で少し笑い、指示を出すと、少しの時間でわかった。
「ボス……これでは?」
一人の部下が、その情報をモニターに出すと、
黒い車から降りる名無しがいた。
サングラスに黒いスーツの男が、名無しを誘拐した犯人だと分かると、大吾は眉間のシワを深く寄せる。
「場所は千両通りのこのビルです」
場所が特定すると、大吾は少し頭を下げてモニター室から急いで出ていった。


涙が枯れるまで流して、疲れて寝てしまっていた。精神的ダメージを食らっていて、起きたら、怖さのあまり大吾さんを呼びながら探すと、目と手を塞がれている為、床の何かに足を取られ倒れてしまい、頭を強く打ったのか意識が遠くなり、動けなくなった。


公園前通りから、千両通りまで車を飛ばして、名無しが捕まっているビルに向かった。
数分で到着すると、車のドアを開けっぱなしで飛びだすと、ビルの入り口のドアのガラスを強い力で蹴り壊して中に入る。
「名無し!」
大声で呼びながら、ビル内を探しだす。
一人の構成員が大吾を呼ぶ。
「会長!!」
呼んでる所に行くと、構成員達に殴られて、ぐったりしている男がいた。
誘拐犯人の一人のだと知ると、凄い怒気のオーラを纏うと、感じとったのかブルッと震えだす犯人。
「名無しさんはこちらです」
「あぁ……」
部屋に入ると、名無しを発見して急いで名無しの名を呼ぶが、反応がなく、抱き抱えて病院に向かった。


目を開けると、部屋が明るく、腕を天井に上げると、誰かに優しく手を包まれる。
「……大吾……さん……?」
その名を呼ぶと、返事と共に手の甲にキスをする。
「た、助けて……くれたんですね……」
「怖かっただろう。もう大丈夫だ」
「ありがとうございます……」
涙を流すと、大きな手で拭られ、お互いに唇を重ねた。




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