貴方がいる、それだけで
「先生!雪だよ雪雪!」
「わかったわかった。そんなもんここからでも見えてるよ。」
だから早くドアを閉めなさい、としかめっ面の琥太郎くんが身を縮み上げながら出迎えた
なんてテンションの低さ。
「まったく、こんな寒いのに何で虹坂はそんなに元気なんだ?」
「え?だって雪降ってるとなんだかウキウキしませんか?」
「それはお子様だけだ。年寄りにこの寒さは辛いんだよ…。」
「9しか変わんないくせに。」
「…というかお前。まさかその格好で来たのか?」
「え?それがどうかしました?」
何かダメだっただろうか、と尋ねると、琥太郎くんは呆れたような溜め息を吐いた
「あのな……こんな雪が降ってる中、制服にマフラーだけで来る奴があるか。」
「だって昼休みだけですし、わざわざコート着なくても良いかなって。」
「駄目だ。風邪引くぞ。お前は馬鹿っぽく見えて馬鹿じゃないんだから。」
「ちょっと、けなしてるけなしてる。」
何てことを言うんだ、と抗議の声をあげる
そんなことを言われたくてきたわけじゃないのに
「…だって琥太郎くん、寝てるかと思ったんですもん。だから早く行って、早く起こさなきゃって急いじゃったんです。」
「ん?」
「せっかく綺麗に降った初雪だから、琥太郎くんと一緒に見たかったんです。」
だから走って来たのに、この言われよう
少しむくれながら紡げば、眉を下げて琥太郎くんが笑った
そして、ゆっくりと手が顔に近付き――
ぎゅ
「むっ、」
「鼻、真っ赤だぞ。」
「だからって摘む人がいますかっ。」
「ははは、トナカイみたいだな。」
「可愛くないし赤くない!…っ!」
するりと
鼻を摘んだその手が、滑らかに私の頬に添えられる
その指先に驚き身体を震わせると、琥太郎くんが柔らかく微笑んだ
「ほっぺたこんなに冷たくして……、あまり可愛いことをしてくれるんじゃない。」
――学校なのに、堪らなくなる
それは甘く響き
じんわりと冷えたはずの身体に熱を灯す
「…ふふ、琥太郎くんの手、あったかい。」
「望が冷たいだけだ。寒くないか?」
「平気だよ。」
頬を温める大きく優しい手に、そっと自分のそれを重ね、微笑う
「すごくあったかい。」
貴方の傍にいる
それだけで、心ごと熱に満ち足りるよ
(というかここ暖房ガンガンすぎるよ琥太郎くん)(寒いんだ、仕方ないだろ。)
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