君の言葉で、世界はこんなにも簡単に色を変える




「う〜、寒い…!何でこんな日に忘れ物しちゃったんだろう…?」

両手を擦り合わせて少しでも暖を取ろうと頑張ってみるけど、あんまり効果はない

「人いないから余計寒い…。」

せっかくの土曜日
外には雪が舞っていて、これはもう一日部屋でぬくぬくしてよう、と決めた矢先に、課題に必要な資料を教室に忘れて来たことに気付いた
気付いた時のショックさといったらたまったものじゃない
けど、あれがないと課題が出来ないのも事実だから仕方なくもこもこ着込んで学校まで来たのだ

「うぅ、コタツが恋しい…」

資料も無事に見つけ後は帰るだけだが、中々外に出る決心がつかない
見る分には全然構わないのに、とかたかた風で揺れる窓越しに、舞い散る雪を見つめる

「……ん?」

白い世界に見えた色に、思わず二度見する
そしてまさかが確信に変わり、ぱたぱたと外に飛び出した

「梓くん!翼くん!」

大きな声を出してその名前を紡げば、軽快に走っていた二人が立ち止まり振り向いた

「ぬ!望!」

「望?何やってるの?」

「課題の資料忘れちゃって…。二人は、ロードワーク?」

資料を見せながらそう問い掛けると、梓くんは白い息を吐き出して肩を竦めた

「そう、365日やらなきゃだからね。」

「ぬ〜、俺は布団で寝てたかったのだ〜。」

「翼はそう言ってサボると思ったから、サボらせないためにわざわざ迎えに行ったんだよ。」

ぬ〜、ぱっつんの馬鹿〜ともごもごマフラーに口元を隠して翼くんが文句を言う
容赦なく脇腹を叩かれていたけど

「こんな雪降ってるのに大変だね。風邪引かないようにね?」

「望こそ…って。それだけ着込んでたら、大丈夫か。」

「だって寒くて。」

「うぬぬ、羨ましいぞ望!俺ももこもこしたいー!」

「きゃ!お、重い翼くん!というか冷た!冷たいよ!!」

ぎゅうっと音がしそうな勢いで翼くんが後ろから抱き着いてきた
手に触れた手が凄く冷たくて、思わずびっくりする

「ぬはは〜、望はぬっくぬくなのだ〜。もふもふしてて気持ち良いのだ〜。」

「確かに段々あったかくなってきたけど、翼くん手冷たすぎだよ…。」

きゅ、とその大きな手を握って温めるように摩ってみるけれど、全然意味がない
あ、誕生日プレゼントに手袋とか良いかも。

(いや、あげたと思ったらすぐ春だ…)

「ぐぬ!?」

「へ?」

来月の翼くんの誕生日に思いを馳せていると、いつも以上に奇妙な声が耳に届く
瞬間、背中を温めていた温もりが離れて後ろを振り向いた
そして、目を丸くした

「翼。誰の彼女に断りもなく抱き着いてるわけ?」

「あ、あずさ、ぐるじいのだ…っ。」

「あまつさえ手なんて繋いで…良い度胸だね。」

ぎりぎりと
物凄く歪んだ笑みを浮かべた梓くんの右手が、翼くんのマフラーをこれでもかと引っ張っている
見上げる翼くんの顔からどんどん血の気が失せていて、本気で慌てた

「あああ、梓くん!翼くんが!翼くんが死んじゃう!離してあげて!」

「………はぁ。」

ちらりとこちらを一瞥して、梓くんが渋々と言った感じに翼くんのマフラーから手を離す
するとぷはぁ!と息を吐き出し、翼くんがその場にしゃがみ込む

「ぬ、ぬ、酷いのだ梓…!」

「うるさいよ翼。そのまま顔面から雪に突っ込むように蹴り飛ばされたい?」

「梓くん……」

見上げた梓くんの表情は心底面白くなさそうな顔で、ヤキモチを妬いてくれたことは流石に私でもわかった

ちょっと容赦ないなぁなんて眉を下げて苦笑いする(翼くん相手っていうのもあるだろうけど)

(でも…)

翼くんには悪いけれど、それでも何だか嬉しく思う自分がいるのは
やっぱり梓くんのことが好きで好きでたまらないからなのだろう

「ね、梓くん。」

きゅ、と彼の上着の裾を掴み、翼くんには聞こえないくらいの小さな声で名前を呼ぶ
こっちに意識が向いたことがわかると、そのまま今度は私が、梓くんのマフラーをぐいっと引っ張る

「っ、」

ぎゅぅっと
屈んで距離が縮まった梓くんの首に両手を回し、背伸びをして彼に抱き着く
胸が梓くんの匂いでいっぱいになって、何だかどきどきした






「ロードワーク、頑張ってね。」






ちゅ






小さなリップ音は雪の降る音に融けて、彼と私の耳にだけ微かに届く
背伸びをやめ抱きしめていた腕を解くと、驚きを隠せないでいる梓くんと目が合った


「…私から抱きしめるのは、梓くんだけだからね?」



流石に恥ずかしくて、口元を押さえてはにかめば、深い深い溜め息が落ちてきた

「ほんっと狡いね、望は。」

「え?」

「そんな可愛いこと言われたら、ここで別れたくなくなるんだけど。」

こつん、とおでこをくっつけて来て、梓くんが困ったように、でも優しく微笑った





「ロードワーク、僕もサボりたくなっちゃったんだけど。」










(ぬー…。いつ立ち上がれば良いのだ……?)









気を使ってくれていた翼くんがいつ立ち上がれば良いかとずっと考えてくれてたのを知るのは、もう少しあとのお話




(翼も気をきかせるなんてこと、出来たんだね。)(梓くん失礼すぎるから…!)


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