嘘つきバレンタイン

「あれ?木ノ瀬、それって夜久からか?」

弓道部の更衣室
さっき貰ったばかりの綺麗にラッピングされた箱を目敏く見つけた犬飼先輩が訊いてくる

「いえ、違いますよ。」

「じゃぁやっぱりあいつからか。…へぇ〜。」

「?それがどうかしたんですか?」

夜久先輩からじゃない、となると、うちの学園に女子はあと一人しかいない
犬飼先輩と同じクラスでもあるあの人に貰うのが、そんなにもおかしいことだろうか

「犬飼先輩も貰ったんじゃないんですか?先着30名のラスト1個って渡されましたけど。」

胴着に着替えながらそう尋ねると、犬飼先輩はニヤニヤしたままこちらに近付いてきた
正直若干鬱陶しい

「いやいや〜、確かに俺も貰ったぜ〜?うまい堂の限定チョコ。」

「へぇ、これそうなんですか。」

「ばーかよく見ろ。ほれ、これがそれだ。」

小さな袋を見せられ、少しきょとんとする

「…何種類もあるんですか?」

「ばっか、んなわけあるかよ。それ、多分あいつの手作りだぜ?」

「え?」

「去年は皆手作りだったんだけど…そっかそっかぁ、今年の手作りは本命にだけか〜。は〜やってらんないぜ〜。」

オーバーリアクション気味に首を横に振る犬飼先輩を尻目に、僕はさっきこれを渡してきた先輩のことをぼんやり思い出す

(…だから、ちょっと緊張してたのか。)

成る程、少し赤く色付いていたあの頬は寒さからじゃなかったのだろう
こんな簡単にばれる嘘までついて、可愛い人だな、と気付けば頬が緩んでいた

「おいおい、なーに締まりない顔してんだ〜?」

「いえ、ちょっと楽しみだなぁって。」

「何が?」




「ホワイトデーまでどうやって焦らしてみようかなって。」




「……は?」




「きっと意識しすぎちゃって可愛いんでしょうね、先輩。」




そういって笑った僕に「何でこいつが良いんだあいつは…?」と犬飼先輩が苦笑いしていたのは、聞かなかったことにした



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