熱源マフラー

先輩がマフラーを忘れました




「こんな寒い日にどうして忘れるんですかね…。」

「呆れないで、私が一番呆れてるの…!さむい…!!」

小さく風が吹いただけで熱が一気に奪われる
何これ本当無理すぎる
早く、早く寮に戻りたい…!
そんな私に、木ノ瀬くんはあからさまに白い吐息を吐き出してみせた

「せーんぱい。」

「何…?今そっち向くのもつら、ぅ」

ふわ

木ノ瀬くんを見るのに横を向くことさえ憚られていた私の首元が、あったかい熱に包み込まれる
思わず反射的に横を見れば、先程まで綺麗に木ノ瀬くんの首に巻かれていたマフラーが案の定なくなっていた

「ちょ、と。何してるの、木ノ瀬くん。」

「あんまりにも寒そうなんで。どうぞ。」

「ダメ!木ノ瀬くんが風邪引いたらどうするの!?なんかすぐに風邪引いちゃいそうじゃんか、ってきついきついきつい!絞殺する気かキミは!?」

「先輩こそ、そんな風に細くて白い綺麗な首を無防備にしてたらあっという間に風邪引いちゃいますよ?僕もう何年も引いてませんし、そんなに弱くないんで大丈夫ですよ。はい、出来ましたよ。」

なるほど、すぐ風邪引きそう発言が気に入らなくて私は殺されかけたのか
唇まで隠れるくらいすっぽりと巻かれたマフラーから香る、木ノ瀬くんの匂い
鼻をすん、と鳴らして、少し笑った

「ふふ、木ノ瀬くんの匂いだ…。」

こういうの、ちょっとドキドキするね、と木ノ瀬くんを見れば、少し困ったみたいな笑顔を返された
やっぱり寒いのかな?

「先輩、あんまり可愛いこと言わないで下さい。」

「へ?わ…っ、」

距離を詰められたかと思うと、そっとおでこに少し冷たい、柔らかな熱が触れる
それが木ノ瀬くんの唇だとわかるのに、時間はかからなかった

「…きのせくん?」

ゆっくりと熱が離れ、すぐ傍の木ノ瀬くんと視線が絡む

「な、何…?」

「…そうですね。寒いから、先輩に温めて欲しくて。…嫌ですか?」

「い、やじゃない、けど、」

どうしてこんなことになっているのかわからず、うまく言葉が出て来ない
そんな私にふ、と笑うと、次は頬にキスを落とされた
木ノ瀬くんの考えが全然わからない
こんなんで温まるの?と疑問にも思ったのに
冷たさが触れる度、私の体温はどんどん上がっていっていく

「木ノ瀬、くん」

「はい?」

「…あつい、よ。」

マフラーに埋もれた箇所は、すっかり暖かさを取り戻して、むしろあついくらいになっていた
ぷは、と口元をマフラーから出すと、冷たさが心地好い
そんな私の唇のすぐ近くに、木ノ瀬くんの指が伝う
その指に従って顔を上げると、綺麗な紫の瞳が、柔く笑んだ



「じゃあ、冷ましてあげますね。」



温めたり冷ましたり、キミは忙しいね、なんて
そんなことを言ってはぐらかす暇すら与えず、彼の少し冷たい唇が私の熱いそれに重なった




嘘つき






もっと熱くなっちゃったじゃんか






(マフラーは、もういらない)







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