幼馴染はむずかしい

月子と錫也や哉太を見ていると、良いなって思ってしまう
大事にされたいとかじゃないけれど、もう少し、仲良しな幼馴染になりたかった

「ほんっと隆文って最低!デリカシーないし気利かないし使えないんだから!!」

「はぁ〜?おめぇみたいなガサツな女に言われたくねぇっての!」

「うるさい馬鹿犬!」

「誰が犬だ誰が!噛みつかれてぇのか!?」

…こういう関係では、なくて



「……慰めて梓くん。」

「慰めを僕に求めるなんて、変わってますよね先輩。」

「そうだね、梓くんは傷口に塩塗るタイプだもんね。」

「それは塗って欲しいって言うお願いですか?」

「ごめんなさい反省してます。」

だからこれ以上傷を抉らないで、と机に突っ伏して謝罪する
そんな私を宇宙食を食べながら、溜め息混じりに梓くんが見下ろす

「そんな落ち込むくらいなら、悪態つかなきゃいいだけの話だと僕は思いますけどね。」

「それが出来てたら私の17年の人生は大きく変わってただろうよ…。」

「照れ隠しも度を越えると可愛くないですよ。」

「ちょっと、それ塩でしょ。」

痛い言葉に唇を尖らせると、眉を下げて梓くんが頭をふわりと撫でた
どっちが後輩かわからないなぁ、なんて思いながら、甘んじてそれを受け入れる

「でも本当、飽きないというか懲りないですよね、先輩って。見てて面白いと言えば面白いですけど。」

「別に見世物なつもりは一切ないんだけど…。いい加減私もどうにかしたいし。」

幼馴染である隆文に片想いすること早何年
月子みたいな可愛い性格をしていないから、いつまでたっても悪友みたいな関係から進展してくれない

「好き、なんだけどなぁ…。」

一体いつになったら一歩踏み出せるのか
自分の性格とか諸々云々に嫌気がさし、流石に溜め息が零れた

「お、なーにやってんだよ二人で。逢引かぁ〜?」

部室の扉がガチャ、と開いたかと思うと、聞き慣れた声がして少し身体が跳ねる
言われた台詞からして、私の言葉は聞こえていなかったみたいで少し安心したが、同時にイラっとしてしまった
文句を言おうと振り返ろうとした瞬間、前に居た梓くんが耳元で小さく囁く

「先輩、ちょっと黙っててくださいね。」

「へ?」

何で?と思ったけれど、ね?と念を押すように可愛く微笑まれては押し黙るほかない
私が梓くんの笑顔に弱いと知ってての確信犯だとわかっていても

「犬飼先輩、羨ましいんですか?」

「はぁ?んなことあるわけないだろ〜?」

からからと笑う隆文に、そりゃそうだ、と少し傷付く思う反面やっぱりイラッとしてしまう
後で叩く。
そう心に決めたのだけれど、そんな決意、次の瞬間一気に消え失せることとなる





「え?だって合宿の夜、先輩のこと抱きしめたいって言ってたじゃないですか。」




「……は?」

黙っていろ、と言われたのに、思わず言葉が口から漏れる
え?だって今の、何?

「ですよね?犬飼先輩。」

「き…っ、木ノ瀬、お前…!」

「あぁ、他にも言ってましたよね?手繋ぎたいとか、うなじが凄く好みで――」

「あ―――!!!お前っ、マジやめろ!それ以上口開いたらアウトだぞお前!!」

梓くんの言葉を遮る隆文の絶叫に、ゆっくりと隆文を振り返る

「っ、」

目が合った瞬間、顔が一気に赤くなるのが自分でもわかった




だって、隆文の顔も負けないくらい、真っ赤だったから




ぐるぐると、梓くんが言った台詞が頭の中を駆け巡り、熱がどんどん上昇する

嬉しさとどうしようもない羞恥が込み上げて、頭がパンクしそうだ

抱きしめたい?手を繋ぎたい?
そんな風に、見られてた?




「うなじに噛み付いて舐めたいらしいですよ。」




「っわ――!!」



ガタン!

梓くんのとんでもないカミングアウトに、勢いよく叫んで立ち上がる

「お、おい…?」

「無理!ほんっと無理!は、恥ずか死ぬ!!」

好きとか嫌いとかじゃなくて、耐えられない
この状態で隆文の前に居るのは、私の心臓にあまりにもよろしくない

(に、逃げよう…!!)

「ぶ、部活までには、戻るから!」

「あ、おい!」

「きゃー!無理!ほんっと今無理だから触らないで!」

バタバタバタ!ガン!と騒々しい音を立てて私が逃げ出した部室には、項垂れる隆文と、呆れたように笑う梓くん

「……ま、これで進展するんじゃないですか?」

「お前…俺超拒否られたじゃねぇかよ…。」

「照れ隠しですって。その内落ち着きますよ。良かったですね、ようやく幼馴染から抜け出せるチャンスじゃないですか。」

「…楽しんでるだろ木ノ瀬。」

「えぇ、結構。」




――隆文に近づけるようになるまで、一か月かかりました。




(お前…あと一週間逃げ回ってたらマジで噛み付いてたぞ…。)(うぇ!?)



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