ビター蜂蜜

「風邪の時って、優しくされると泣きそうになるよね。」

先輩は鼻をすん、と鳴らして鼻声で小さく呟いた

「そうですか。じゃあ泣いても良いですよ?体温上げた方が治り早いでしょうし。」

「梓の前で泣きたくないから言ってるんだけど。」

出てって、と睨む先輩の目は僅かに潤んでいて、それじゃ僕を煽るだけなのにと、胸の中の狂暴な気持ちを隠して肩を竦める

「せっかく看病しに来た後輩にそんなこと言わないで下さいよ。」

「頼んでないもん。」

「僕は頼まれましたよ、宮地先輩に。」

その名前を出すと、ぴくりと先輩の身体が揺れる
それに気付いてて僕はそのまま言葉を続けた

「自分よりも木ノ瀬の方が気が利くだろうから、任せても良いかって。副部長に頼まれたら来ないわけにもいきませんからね。」

本当は、少し語弊がある
宮地先輩は確かにそう言ったが、宮地先輩より僕の方が適任だと、宮地先輩を言いくるめてたのだ
あと、夜久先輩との先約があったのも知っていたから
先輩の看病は僕に任せて行ってきて下さい、デートをダメにしたって知ったら、その方が先輩申し訳なく思っちゃいますよ
人当たりの良い笑顔でそう紡ぎ、ようやくあの言葉を言わせた
じゃなかったら、大事な幼馴染のところに僕をそう簡単に行かせたりしないだろう
それくらい少し考えればわかるだろう、けれど目の前の熱に浮かされた先輩は、僕の言葉を鵜呑みにして、傷付いた顔を隠すことさえ出来ないでいた

「宮地先輩じゃなくて悪いですけど、僕だって先輩が心配なんです。だから看病させてください。」

そう紡ぎ、優しく先輩の頭を撫でる
すると小さな拒絶の言葉を弱々しく口にして首を横に振る
形だけの抵抗
それに少し微笑み、今度はその頬に指先を滑らせた

「先輩。先輩は今、風邪を引いてるからそんな風になってるんですよ。」

「え…」

「だから今泣いたって、風邪が辛いんだなぁとしか僕は思いません。…辛かったら、泣いて良いですよ?」

顔を近付け囁けば、汚れを知らない瞳から雫が落ちた
それを指先で拭ってやると、スイッチが入ったみたいにぽろぽろと涙を零し嗚咽を漏らす
それが宮地先輩への恋心のせいだと言うのは百も承知で、あまりいい気分ではないけれど

「先輩、大丈夫ですよ。泣いたらきっと、楽になりますよ。…泣き終わるまで、僕はここにいますから。」

先輩をあやすように抱きしめれば、弱々しく僕のシャツを握ってくる
その光景に、思わず笑みを深めてしまう

宮地先輩への恋心なんて、その涙と共に全部吐き出してしまえばいい




そしたらあとは、甘い甘い蜜をそこに注ぎ込んであげますよ、先輩




(優しさの裏に、)



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