ホワイトデーとミルフィーユ

これの続き



「せーんぱい。」

可愛い声に、身体が過剰なくらいに反応する
振り返れば絶賛片想い中の相手が立っていて、今日も格好良いな、なんて嫌でも心臓が高鳴ってしまう

「あ、梓くん…。」

「こんにちは先輩。今時間大丈夫ですか?」

「え、うん。」

「良かった、じゃぁ屋上庭園に行きましょう。」

今日は天気も良いですよ、と何だか楽しそうに笑う梓くんの目的もわからないまま、私はその背中を追った
いや、何となくはわかりますけど、何故屋上?




「これ、バレンタインデーのお返しです。」

「あ、ありがとう。」

ベンチに二人で腰掛け梓くんに手渡されたのは、予想通り、ホワイトデーのお菓子
小さな紙袋を受け取りながら、少し微笑む

「なるべく今日中に食べて下さいね。何だったら、今食べてくれても構いません。」

「え、傷むものなの?…開けても平気?」

「はい、どうぞ。」

梓くんの許可を貰って、紙袋から箱を取り出してそれを開ける
開けて、思わず二度見してしまった

「先輩?」

「あ、いや、ごめん。…あの…梓くん、つかぬ事をお伺いしますが、……まさか手作り…?」

「そうですよ。ちゃんと味見もしましたし、大丈夫だとは思いますけど。」

それがどうかしましたか?と逆に尋ねられ、思わず閉口してしまう
お菓子まで作れるなんて、どこまで出来る子なんだ彼は
しかも何故、わざわざミルフィーユ。

(は、計り知れないなぁ…)

こう言うとき余計に、とんでもない相手を好きになったなぁ、と感じてしまう

「ううん…少し、びっくりしただけ。月子もびっくりしてたでしょ?」

「え?あぁ…残念ながら、夜久先輩には市販のクッキーをお返ししたんです。」

「え?…何で?」

こんなもの渡したら、月子なんてすっごく喜ぶだろうに
そう思い首を傾げると、梓くんは私の顔を覗き込むように見て微笑んだ







「だって、先輩も手作りだったじゃないですか。――僕だけに。」






「へ…、…っ!!」

にっこり
そんな音が似合う悪戯な微笑みと言葉の意味に、かぁ!と頬に熱が集まる

「なっ、え、え!?」

「やだな、先輩。あんな可愛い嘘、僕にはすぐばれちゃいますよ。」

くすくすと楽しそうに微笑む梓くんが、そっと私の指先を捕らえた
身体を震わせた私のことなんてお構いなしに、距離を詰めてくる

「先着順、なんて言ってましたけど……あれって、僕だけ特別ですよね?」

「ぅ、あ、の。」

逃げることなんて出来ないのは知っているけれど、だからって真っ正面から梓くんに向き合う勇気なんて私にあるわけない(あったらバレンタインに頑張ってる)
だけど考えもしなかった展開にまともな言葉が出て来ないのも事実で、すぐ傍の梓くんの綺麗な顔に、言葉じゃなくて涙が出て来そうな勢いだ

「…せーんぱい。そんな可愛い顔しないで下さい。食べちゃいたくなります。」

「は、」

「落ち着いて考えてみてください。僕は貴女からのチョコが本命だって知ってました。知ってたからこそ、こうやって手作りのお菓子を持って来たんです。…ね、それってどういうことか、わかりませんか?」

「ど、どういうって…」

この距離で、こんな甘く囁かれて、わからないほど鈍感ではないけれど
さっきから言っているように、好きな人に正面から好き、なんて言える度胸はないんです。しかもこんな間近で。

「あ、梓くん、とりあえず、離して…」

「駄目です。ちゃーんと先輩が言ってくれるまで、離してあげませんよ?」

「え…っ、」








「昼休みが終わるまでまだまだ時間はありますし…僕、ゆっくり待ちますから。」








ね?とそれはもう格好良くて可愛いとびきりの笑顔で微笑まれ





――それから20分間、心臓が色んな意味で辛かった。






(お前…本当にあいつが好きなのか?)(うるさいなほっといてよ犬飼の馬鹿ー!!)


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