正直な話、この関係のさじ加減がわからない
「そういえば、和先輩のクラスは何するんですか?文化祭。」
梓くんが彼氏になって早4日目の帰り道
繋ぐ手に違和感を感じることも少なくなり、何だかんだ言いながらも仲良しカップルに見えてると思う
というか、私の動揺すらただの羞恥に見せ惚気に変えてしまう梓くんの技が凄すぎる
付き合ったことはない、なんて言っていたけど、絶対嘘だと思う
「…せんぱーい?」
「えっ?あ、文化祭!だよね?」
「はい。」
「私のクラスはテイクアウト型のお菓子屋さんだよ。星型クッキーとか、そういうの売るの。」
「へぇ、良いですね。…でも、それってもしかして、和先輩の手作りだったりします?」
「え?うん。」
確かに、お菓子は大半私が作ることになっている
でも青空くんや犬飼も手伝ってくれるので、そんなに苦じゃない(元々お菓子作りは好きだし)
だから素直に頷いたのだが、梓くんは少し面白くなさそうな表情をした
「梓くん?どうかした?」
「いえ。和先輩の手作りを皆が食べるのかって思うと、少し良い気分にはならなくて。なんかそういうのって、彼氏の特権っぽいのになぁ。」
ちぇ、と呟く梓くんにちょっと噴き出してしまった
「言ってくれたらいつでも、何でも作るよ?梓くんだけに。」
「嬉しいですけど、何で笑ってるんですか?」
「だって、なんか可愛い。」
「そんな風に笑ってる和先輩の方が充分可愛いですよ。」
拗ねたみたいな言い方に笑いを抑えられなくて、くすくす笑ってしまう
時々、ふとしたタイミングで年相応に見えるのだから彼は不思議だ
ついつい引き込まれてしまう
「はー。笑ってごめんね?そういえば、梓くんは?何するの?」
「僕のところは宇宙食喫茶です。」
「宇宙食喫茶…宇宙科ならではだね。なんかちょっと面白いかも。」
「そうですか?まぁ調理したりする手間がない分楽なんですけど。呼び込みとかしなきゃならないのがちょっと面倒くさいなぁって。」
肩を竦めて笑った梓くんは、でも、と言葉を続けた
「楽しみにしていることもあるんです。」
「え?何々?」
「スターロードです。」
梓くんの楽しみにしていることって何だろう?
そう思って興味津々で訊いたのだけれど、返ってきたのは意外な答えだった
「梓くん…好きな子、いたの?」
「やだな。こんな手まで繋いでる状態でそんなこと聞きます?」
「え?」
「僕は可愛い彼女と行くつもりでいるんですけど。」
「え?あっ…え!?」
握り締める手に力を込められ、驚きを隠せない
だって、スターロードと言えば好きな人と歩けばその恋は上手くいくというジンクスがある星月学園文化祭の名物だ
そこを私と歩くのが楽しみと言う彼の意図が読めなかった
「わ、私とで良いの?」
「先輩が良いんです。それに、恋人になって初めてのイベントを一緒に過ごさないと怪しまれちゃいますよ。」
「で、でも。文化祭一緒に回るだけでも充分だと思うけど…」
「和先輩。」
歩く足を止め、梓くんが向き合うように前へ来た
そして両手をそっと握り締め、柔い笑みで私を捕らえる
「スターロード、僕は和先輩と一緒に歩きたいんです。……ダメですか?」
そんな
そんな風に訊かれて、ダメと言える人の顔が見てみたい
自分の魅力をよく知っている梓くんの策略にまんまと嵌められている気もしたが、歩く、とぽつりと返事をしてしまった
ねぇ、梓くん
私はどこまで、キミに近付いて良いのだろう?
(ちなみに去年はどうしてたんですか?)(月子達と一緒に見に行ったよ。虚しいったらない!)
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