じゃぁお弁当を貰えない代わりに、こうやって何かおかず一つ貰いますね。

あの後そう提案されて頷いたものの、これって結構彼女でもレベル高い技じゃないかな、なんて思ってしまった

「あ、そうだ梓くん。相談があるんだけどね?」

「はい、何ですか?」

「あのね――…」




「和ちゃん、梓くんと付き合ってるって本当!?」

「そーだそーだ!おおお、お前らいつの間にそ、そんな!!」

「って何で木ノ瀬の後ろに隠れるんだよ朝霞!見せ付けてんのか!?」

梓くんと一緒に顔を出した放課後の弓道部部室
入った瞬間、怒涛の質問攻めが待ち構えていて
あまりの剣幕に、梓くんの背中に逃げてしまった



「…無理。」

「そうですね。」

「たとえ内緒って言っても白鳥くん辺りが悪意もなくうっかり口滑らせちゃうよあれ…!やっぱり言えない!」

「それは同感ですね。まぁ和先輩の気持ちもわかりますけど、ここは弓道部のみんなにも秘密にするのが得策ですね。」

「うぅ、月子まで騙すのかぁ。でも、正直月子も嘘に関しては信用ならないもんね…。」

「それが夜久先輩の良いところでもありますからね。」

まったくもってその通りだ
みんなを騙すのが申し訳なくて、せめて仲が良い子にだけは本当のことを話しても良いかを梓くんに相談までしたのに
改めて弓道部の面々を見ると、どこからボロがでるかわからない、と冷静に判断してしまった
皆からの質問から梓くんに助け出され、弓道場の入口横で溜め息を吐いた

「でも、もう少し落ち着いてからでも良いと思いますよ。先輩の為の嘘なんですから、黙っていたとしてもそれは怒られることではありません。」

「そうだけど、犬飼辺りの冷やかしに堪えれるかなぁ…。」

「あまりに酷かったら僕に言ってください。僕からよく言っておきますから。」

「平和的に言ってるけど何だか怖そうだよ、梓くん。」

冗談かどうかわからない口調でさらりと言うから、思わずくすくす笑う

「和先輩、どうせだから今日見学して行きませんか?帰り、送って行きますよ。」

「え?…うん、そうだね。梓くんの弓、見てみたいし。あ、でも邪魔にならない?入部しないのにそんな…」

「大丈夫ですよ、可愛い彼女を一人で帰らせるなんて出来ませんから。」

「その理由、言ったら宮地くんがキレるんじゃないかな梓くん…。」

「俺がどうかしたか?」

梓くんの軽口を心配していると、後ろから噂の人物の声が降ってきた

「宮地くん、」

「こんにちは、宮地先輩。」

「あぁ。………お前ら、本当に付き合ってたのか?」

「え!?宮地くんまで知ってるの!?」

意外!と思わず声を大きくすると、宮地くんが眉間にシワを寄せた
折角格好良いのに、もったいない

「白鳥がずっと教室で騒いでいたからな。嫌でも耳に入ってきたんだ。」

「あぁ、白鳥くんか…なるほど。」

「なーんだ、僕てっきり宮地先輩が和先輩に気があったのかと思っちゃいましたよ。」

「な…っ!?…木ノ瀬、何を言い出すんだ!」

「まぁ、本当にそうだったとしても和先輩はもう僕の彼女なんで、渡しませんけど。」

肩を抱いて私を引き寄せたかと思うと、梓くんはにっこりと宮地くんに向き直して笑う
瞬間、宮地くんの顔の眉間のシワが有り得ないくらいにきつくなった

「木ノ瀬…、お前はどうしていつもそう慎みもなく軽々しくそんなことを言うんだ!!大体お前は――」

「み、宮地くん宮地くん!部活、始まる前に着替えなよ!ね?」

「っ。…そうだな。部活に遅れるわけにもいくまい、着替えて来る。木ノ瀬、説教は後だ。」

「はーい。」

(絶対はぐらかすな梓くん…。)

宮地くん相手にも飄々とした態度を崩さない梓くんに、いっそ感心してしまう
何だか、色々ギャップあるなぁ、なんて思いながら宮地くんの後に続き再び弓道場に入る
すると先程よりも落ち着いた皆が私達を迎えてくれた

「お、愛の逃避行はもう良いのか〜?」

「はい、おかげさまでより一層仲良くなりましたから。ね、先輩。」

「えっ?あ、うん!?」

「先輩、そこは語尾上げないで下さいよ。」

「ご、ごめん、つい。」

困った人ですね、なんて言いながらも柔らかく笑う梓くんに、まだ慣れない心臓がドキドキする
こんな皆の前で、梓くんは本当に凄いなと改めて思い、私もしっかりしなくてはと思う
そんな所に、月子が可愛く爆弾を落としてきた

「ねぇねぇ、和ちゃんは梓くんのどんな所に惹かれたの?」

「…え?」

「そうだそうだ!教えろこのやろー!」

「こらお前達!そういうことを神聖な道場で――」

「まぁまぁい〜じゃん宮地ぃ〜!お前もちょっとは気になるだろ〜?あの朝霞と木ノ瀬だぜ〜?」

「む…、いや、俺は別に…!」

皆が盛り上がる中、まさか昨日初めて話したばかりでよく知らない、なんて言い出せなくて苦笑いする
どんな所か、と少し考え、ゆっくり口を開く

「……優しいところ、かな?」

私のその答えに、皆がきょとんとした表情をした

「優しい〜?木ノ瀬がぁ?」

「まぁ、冷たくないとは思わねぇけど、優しいとも特別思わないなー。」

「んー…、今朝、梓くん胴着のまま私のこと迎えに来てくれたでしょ?」

確認するように梓くんの方を向けば、梓くんもどうやら私のコメントにきょとんとしていたらしく、目を丸くしていた

「…あぁ、あれですか?ちょっと朝練が長引いて着替えてたら待たせてしまうと思ってつい…。それが、どうかしたんですか?」

「なんか、意外だったの。」

「え?」

「私が思ってた梓くんと違うなぁって思ったんだけど…。わざわざ部活終わってすぐに迎えに来てくれたことが凄く…嬉しかった。」

「、」





「私の為に、走ってくれてありがとう。」





改めて言葉にするのはなんだか恥ずかしくて、少しはにかむ

犬飼や白鳥くんが何か叫んでたけど、この際気にしない
少しは、恋人のように振る舞う努力を私もしなきゃ

「先輩…」

「あとね、…手振りながら駆けてきてくれたの、ちょっと可愛かった。」

可愛い、なんて言ったら怒るかな?なんて思ってちょっと控えめに告げると、少し困ったように、ふは、と梓くんが笑う

「最後が微妙でしたけど、和先輩が喜んでくれたなら、走って良かったです。」

きゅ、と手を優しく繋がれ、少し心臓が跳ねる






「先輩の為ならどこにだって走って行きますよ。だから僕の名前、ちゃんと呼んで下さいね。」






それは、守ると言ってくれた昨日の約束の続きなのだろう
その言葉に、返事の代わりに少しぎこちなく繋いだ手に力を込めた






――ありがとうと、ごめんねの気持ちを込めながら






(ところで、僕のことどういうイメージしてたんですか?)(斜め上から見下すみたいに怒られるかなぁって。)


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